LIVE AT THE TRIDENT (Columbia) |
| - Denny Zeitlin |
|
|
Denny Zeitlin (p) Charlie Haden (b) Jerry Granelli (ds) 1965/03/22-24 |
|
|
|
デニー・ザイトリンの『アット・ザ・トライデント』は、たまに手が伸びるアルバムの一つだ。 好きなピアノ・トリオのアルバムの1枚でもある。 何せジャケットが良い。 寒々しいジャケットだ。 ジャケットの右側3分の1に、晩年のビル・エヴァンスを彷佛とさせるルックスの白人が映っている。 メガネに、濃いヒゲ面の神経質そうな顔。 そんな彼が何やら虚空を見つめている。 彼の背後にある板壁と浮き袋は、一見、木造のオンボロ漁船のようにも見えるが、浮き袋の文字から推察するに『トライデント』というライブハウスなのだろう。 全体的に寒色系のトーンのジャケット。 イヤが応にも北欧な雰囲気だ。寒い。 ジャケ写をよく見ると、前面のザイトリンはピンボケで、後方の浮き袋の方にピントが合っているところが笑える。 だからなのか、数多あるジャズのアルバムのジャケットの中では異様に目立つし、何故だかとても目を惹く。 予備知識もなく、ジャケ買いをしてしまったアルバムの一枚だ。 内容の方はというと、これまたジャケット通りの音楽。 1曲目は、《セント・トーマス》だが、こんなに寒い《セント・トーマス》は聴いたことがない。 《セント・トーマス》は、元々はソニー・ロリンズの曲。 名盤『サキソフォン・コロッサス』での演奏が有名だ。 ロリンズの母親は西インド諸島の出身だという。 その西インド諸島の調べを幼少時からロリンズは聴きながら育った。いつしかその調べが、彼の血肉となたのだろう。まるで彼の身体の一部のように演奏される曲が《セント・トーマス》だ。 寺島靖国氏が著書に「《セント・トーマス》を口ずさみながら生まれてきた男、ソニー・ロリンズ」というような表現を使っていたが、蓋し名言だと思う。 カリプソのリズムにのってテーマが奏でられる非常に明るく、楽しく、陽気なメロディの曲だ。 つまり熱い(暑い)曲なんですね。 そして、楽しい曲でもある。 ところがザイトリンの《セント・トーマス》はどうだ! 暑いどころか寒いぞ!(笑) ジェリー・グラニールのドラムがトコタカ・トコタカと、せわしなくリズムを刻む。 チャーリー・ヘイデンのグッと重心を落とした粘着質なベースが淡々とボトムを支える。 そこに入るザイトリンのピアノ! さ、寒い! アドリブの冒頭一発目のフレーズ。もしロリンズの『サキソフォン・コロッサス』のような展開を期待していると、いとも簡単に肩透かしを喰らわされる。 なにせフレーズがとてもメカニカルなのだ。 クロマチカルなアドリブラインは流麗だが、素っ気無いというか、ちょっと無愛想な感じがする。 なんというか、ロリンズや他のジャズメンの演奏に感じられる「肉」な感じがしない。歯医者の持つ回転するドリルの先端を思わせる、鋭くも寒いフレーズが断片的に紡ぎ出される。 これはこれでとってもクセになってしまいそうな解釈と演奏だ。 斬新、と言っても良いかもしれない。 思いっきり寒い《セント・トーマス》の次は《キャロルズ・ワルツ》。 この曲でザイトリンのピアノは全く違った一面を見せる。 ほの暗い情熱に彩られているとでも言おうか、暗いがとてもロマンティックなバラードだ。ちょっとテーマのメロディが《インビテーション》に似ていなくもないが…。 私はこのアルバムの中ではこの曲が一番好きだ。 奥さんに捧げた曲のようだ。 メインとなる5音を演奏全体を通して執拗に繰り返しているあたりが、不器用な愛の告白めいていて逆に微笑ましい。 冒頭の2曲を引き合いに出してみたが、この対照的な2曲で、何となくデニー・ザイトリンのピアノの特質が浮き彫りに出来ると思う。 そう、彼は神経質なロマンチストなのだ。 この神経質でロマンティックなピアノは、アルバム全体のトーンとして濃厚に貫かれている。 ヘンは喩えだが、数学者や物理学者が女性を口説く時のちょっとした不器用さと照れ(あくまで想像ですが)を目の当たりにしているようで、それはそれで中々面白い。 そういえば、デニー・ザイトリンは精神医学の分野では長年の実績を持つドクターなのだそうだ。 まあ経歴と演奏内容の関連づけはあまり意味がないので妙な詮索や結び付けやめておこう。
このアルバム中、彼はブルースも一曲やっているが(《スパー・オブ・ザ・モーメント》)全然ブルージーじゃないところも微笑ましい。 |
| (2002/04/16) |
|
|
|
|
All Rights Reserved. |