PLAYS GERSHWIN (Kitty Records)
- 山下洋輔

  1. Love Is Here To Stay
  2. A Foggy Day
  3. My Favorite Things
  4. But Not For Me
  5. I Love You Porgy
  6. It Ain't Necessarily So
  7. I Got Rhythm
  8. Someone To Watch Over Me
  9. Embraceble You

山下洋輔 (p)
Cecil McBee (b)
Pheeroan Aklaff (ds)

1989/05/2 & 3

“フリーフォームじゃない山下洋輔”の傑作だと思う。

このアルバムの発売直後のタイミングで、私は新潟の「スワン」というジャズ喫茶で偶然耳にすることが出来た。

「スワン」のJBLから大音量で流れてくる、勢いにと躍動感に満ちたピアノトリオに耳が釘付けになった。明るく、ポジティヴなパワーがスピーカーから放射されているような感じがしたのだ。

誰のピアノだろう?

当時の私は、“フリージャズの山下洋輔”しか知らなかったこともあり、恥かしながら、ジャケットを見るまでは、誰の演奏だか皆目検討がつかなかった。

ピアニストが山下洋輔だと知ったとき、こんなこと言っちゃ失礼かもしれないが、「山下洋輔って、ちゃんとした曲も演奏出来るんだ」と思った。
なにせ、『クレイ』とか『ダンシング古事記』の殺気立った強烈な音が耳に焼き付いていたもので…。

しかも「ちゃんとスタンダードを弾けるどころか、とても面白い演奏だ」とも思った。
どう面白いかというと、一言で言ってしまうと、非常にエンターテイメントした演奏が良いのだ。

分かりやすいスタンダードの解釈に、随所で爆発する鍵盤の連打。
この緩急のバランスが実に巧みで、ぐいぐいと聴き手を引き込んでゆく。
メリハリのつけ方と、演奏という“ストーリーの展開”が非常にスリリングで、魅力に満ちた演奏だと思った。

東京に帰ったら、すぐにこのアルバムを買い求めたのは言うまでもない。

私の愛聴曲は、
1曲目の《我が恋はここに》と、それに続く《霧深き日々》。

スピード感と重量感のバランスが絶妙なリズムセクションに支えられ、ピアノがどこまでも自由にのびのびと飛び跳ねている。
スタンダードの心地よいメロディに浸っていると、次の瞬間、山下の必殺技“ピアノの連打”が炸裂することもあり、聴いていてまったく退屈することのない演奏だ。

そして、決定打は、3曲目の《マイ・フェイヴァリット・シングズ》にトドメを刺すだろう。
セシル・マクビーの印象的なベースの反復パターンに支えられ、フェーロン・アクロフのドラムと山下洋輔のピアノが炸裂!
手に汗握るスピード感とスリルを味わえる。

ためしに、私も彼のベースパターンをウッドベースで真似をしてみたが、2分と持たなかった。
このテンポとノリを維持するのは、私の場合は、ウッドではなく、エレキでも困難だ。
もっともそれは、単に私の技量不足なんだけど。

それにしても、いやぁ、よくぞ暴れまくるドラムとピアノをベースで支えてくれました。
まさに、演奏の屋台骨。ベーシストの鑑!
セシル・マクビーの鋼鉄の指に乾杯!

もっともこの曲は、何度も聴いていると、執拗に繰り返されるピアノとベースのリフがちょっとシツコい感じがしないでもない。
ただ、コルトレーンのバージョンに慣れた耳には、とても新鮮な新しい解釈の《マイ・フェイヴァリット・シングズ》だと思う。

以上のように、私のお気に入りナンバーは、前半の3曲に集中する。

しかし、《アイ・ラヴ・ユー・ポーギー》も忘れてはいけない。
このムード満点なバラードプレイを聴いていると、とても猫背姿でピアノに肘鉄や頭突きをくらわす、フリージャズの山下洋輔とはとても思えない。

とても分かりやすい、大感動の嵐の《アイ・ラヴ・ユー・ポーギー》を聴けば、フリーで凶暴なピアノだけではない、山下洋輔というピアニストの懐の深さと、表現の間口の広さを味わえると思う。

“フリーじゃない山下洋輔”のアルバムでは、私は『センチメンタル』を高く買っているが、もう少しジャズっぽい躍動感を求めるのであれば、この『プレイズ・ガーシュイン』をオススメしたい。

まさに、タイトル通り、《マイ・フェイヴァリット・シングズ》を除けば、すべてガーシュインの曲で固められたアルバムだ。
(2003/09/08) 

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