THE NEW TRISTANO (Atlantic)
- Lennie Tristano

  1. Becoming
  2. C Minor Complex
  3. You Don't Know What Love Is
  4. Deliberation
  5. Scene And Variations
    a.) Carol
    b.) Tania
    c.) Bud
  6. Love Lines
  7. G Minor Complex

Lennie Tristano (p)

1962年2月

こういう演奏を、面白い・面白くないだけで判断しちゃぁ、バチが当たりそうだ。
だからといって、つまらない内容なのかといったら、トンでもない!
恐ろしく(そう、「恐ろしい」ほどに)、面白い音楽なのだ。
私が、これをはじめてジャズ喫茶で聴いたときは、一発で音楽から漂ってくる異様なムードの虜になってしまった。

「怨念グルーヴ」。

ヘンな言い方だけども、正確さ、完璧主義もここまで突き詰め、煮詰めると、逆に音楽全体から、湯気や蒸気、そして眩暈がするほどの、ウネリとグルーヴが生まれてくることに驚いた。
「うわっ!すげー!」といって、JBLのスピーカーの前に張り付き、聴き入ってしまったものだ。
「絶対にキミの好みだと思ったよ」
当時の、レコード係の人のニヤリとした笑顔を思い出す。

ウネリ、グルーヴといっても、もちろん、全身が踊り出すような単純明快なノリでない。「屈折グルーヴ」だと思う。だが、このなんともいえない独特なウネリは強力だ。
曲のほとんどが、左手のウォーキングベースに、右手でアドリブを奏でるというスタイルで演奏されているのだが、この、永遠に続くんじゃないかと思うほどの左手のベースラインは非常に強力。無愛想さにクラクラする。気持ちが良い。

盲目のピアニスト、レニー・トリスターノにまつわる逸話・伝説はいろいろとある。そして、そこからの連想で導き出されるトリスターノという人物像も、あまり良いイメージではないことは確かだ。
弟子のリー・コニッツが自分の気に入らないソロを取った箇所はすべてハサミでカットしてしまい、ツギハギだらけのアルバムを作ったとか、あまりに音楽に求める姿勢がストイックすぎて、弟子がどんどん離れていったとか、『鬼才トリスターノ』という邦題のアルバムがあるように、「鬼才」な感じが近寄りがたい雰囲気を醸し出しているんじゃないかという、こちらの勝手な思い込みとか、『鬼才トリスターノ』のジャケットが怖い(笑)とか、『鬼才トリスターノ』のA面の曲は、ピアノのピッチを変えたりしてオーバーダビングを重ねていることから、自室で一人、実験を重ねながらほくそ笑んでいる、マッド・サイエンティストなイメージだとか、まぁ、少なくとも、陽気でハッピーな気分になれるようなイメージは、トリスターノには無い。
音楽家というよりかは、冷徹で、妥協を許さぬ科学者、それも、かなり堅物の科学者、といったイメージだ。

私は、トリスターノに関して、このような予備知識と先入観を既に持ってしまっていたので、初めて、この『ニュー・トリスターノ』を聴いたときは、自分の音楽を突き詰めるあまり、満足できるベースとドラムがいなくなってしまったのかな?とか、自分に協力してくれる弟子が一人もいなくなって、仕方がないから、一人で完璧な音楽を作ったのかな、と穿った想像もしてしまった。

しかし、ことの真相はどうであれ、音楽の素晴らしさ(というか凄さ)には変わりが無いわけで…。

何から、何まで全部一人の、孤独、いや、孤高のトリスターノ。
しかし、逆に言えばこのアルバム、リズムから、ハーモニーから、旋律から、発散される空気まで、100パーセント、トリスターノを堪能出来るわけだ。
恐ろしく変わった人物の全容が、これほど凝縮されているフォーマットもないだろう。なにせソロなのだから(笑)。
厳しい世界ではあるけど、身震いするほど完璧で美しい世界でもある。
そして、荘厳だ。
パイプ・オルガンで奏でられるバッハよりも、私にとっては荘厳。

決して難解ではない。不思議な興奮をもたらしてくれる音楽だ。
(2002/03/15) 


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