JAZZ ADVANCE (Blue Note)
-Cecil Taylor

  1. Bemsha Swing
  2. Charge'em Blues
  3. Azure
  4. Song
  5. You'd Be So Nice To Come Home To
  6. Rick Kick Shaw
  7. Sweet And Lovely

Cecil Taylor (p)
Steve Lacy (ss) #2,4
Buell Neidlinger (b)
Dennis Charles (ds)

1956年9月

セシル・テイラー記念すべきデビュー作。

トリオ、ソロ、そしてスティーヴ・レイシーのソプラノを加えたカルテット編成の3パターンでの演奏が収録されている。

後年のテイラーを知ってしまった耳で聴くと、まだまだスタイルが完成されていない上に、テイラー自身の意欲的な試みも、演奏上では未消化な部分が多く、悪く言えば中途半端。やけに鋭角的でコキコキとした4ビートといった印象だ。

しかし、良く言えば、既に当時のジャズの文脈から逸脱した新しい試みが早くも実を結びつつある不思議な肌触りのサウンドだともいえる。

パキパキ・ポキポキとあくまで硬いリズム、ノリは、テイラー独自のもので、このフィーリングを過激に拡大深化させた結果、後年の、目にも止まらぬスピードでの鍵盤連打にたどり着く。

きっと、彼のリズム感がもっと丸く柔らかであれば、もっと違うスタイルのピアニストになっていたことだろう。もしかしたら、スピード感のあるアンドリュー・ヒル的なピアニストになっていたかもしれない。

しかし、クラシックの修行を積んでいた彼が最初に惹かれたジャズマンがデイヴ・ブルーベックだというから、おのずと行くべきスタイル、ビート感、ノリは最初から決定されていたのかもしれない。

もちろん、エリントン、モンクも敬愛している彼のこと、ノリはともかくとして、和声感覚は彼ら独自の重層的なハーモニーの影響をも受けているし、テイラー自身もかなり研究していたことが、音の随所からうかがい知ることが出来る。

そういった意味では、モンクやニコルズの“語法”をさらに煮詰めたテイラーの和声感覚とともに、ブルーベック的なギクシャクとしたリズム感覚が分かりやすいカタチで提示された、テイラーの原点を知るにはもってこいの一枚といえる。

私がもっとも好きなナンバーは、ソロで演奏される《帰ってくれればうれしいわ》。

「スタンダードをいったんバラバラに解体した後、テイラー流に再構築した」という論評はよく見かけるが、皆さん本当に「解体→再構築」を実感として聴き取っているのだろうか?
本当に理解して書いているのだろうか?

正直、私には「解体」にも「再構築」にも感じない。

非常に難解なピアノだが、「どこを解体して、どこを再構築しているんだろう?」という目線で聴いているかぎり、この曲の真の美しさは理解できないと思う。

もちろん、《帰ってくれればうれしいわ》のテーマのメロディの“破片”は注意深く聴けば、いくつかの箇所で発見できる。

しかし、だからといって、それをもって「再構築」と形容して良いものかどうか。

メロディの断片がチラリと見え隠れする様、これって見方を変えれば、グチャグチャに破壊されつつも、かろうじて曲のパーツの一部が原型を保っている「残骸」にだって聴こえるはず。

しかし、私思うに、この《帰ってくれればうれしいわ》は、「破壊」でも「再構築」でもないんじゃないか?
少なくともそういうキーワードを念頭に聴いていた限りでは、この演奏からは何も見えてこなかった。感じなかった。

テイラーは最初から「破壊」も「再構築」もせず、「創造」しているのではないのだろうか?

そういう仮説で、もう一度この曲を味わうと、不思議とこの幾何学的なピアノが、キラキラと光るダイヤの原石のような眩い光を放ち、こちらに近づいてきた。

ピアノの響き、間、不協和音、力強い打鍵、幾何学的なフレーズ。これらすべてが、とても美しく輝いている。

もはや、スタンダードの《帰ってくれればうれしいわ》という有名曲ではなく、テイラーがたった今、荒々しいデッサンで描きあげた《帰ってくれればうれしいわ》となって目の前に立ち現れる、そのような錯覚を覚えるようになった。

このソロ演奏1曲聴くだけでも、キャリア初期から潜在的に持っていたテイラーの美意識と叙情性が痛いぐらいに伝わってくる。
もっとも、理解できるまでには時間がかかるかもしれないが……。

現在はブルーノートが版権を持っているが、元はとえいばマイナーレーベルのトランジションから1955年に出されたアルバム。
彼のギャラは往復の汽車賃だけだったという。

テイラー入門としては、『コンキスタドール』や『コンプリート・アット・ザ・カフェ・モンマルトル』などという他のもっとスゴイアルバムがたくさんあるので、そちらのほうをオススメしたのだが、ハードバップの文脈から逸脱した、ちょっと変わった尖がったジャズに興味のある方には、『コルトレーン・タイム』とともにおススメしたい、テイラー初期の代表作だ。

《帰ってくれればうれしいわ》だけでも、一度耳を通してみる価値アリ。
(2007/07/25) 

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