黒船・ビギニング
―須賀大郎短編集―(下)
(Cool Fool)
- スガダイロー

  1. 十二次を行く
  2. 上州無宿
  3. 黒船
  4. 子供の歌 第一番
  5. 坂本龍馬の革靴
  6. スイングしても意味が無い〜セロニア
  7. マイ・ファニー・バレンタイン
  8. 清河八郎
  9. スタンダード
  10. ビギニング
  11. 桜田

スガダイロー (p)
東保光 (b)
服部正嗣 (ds)

2009/04/02 & 07

鍵盤快男児・スガダイローの幕末シリーズ第二弾。
須賀大郎短編集の(下)は、(上)の坂本龍馬のジャケットに続き、今度はペリー。しかも下田了仙寺所蔵の「天狗ペリー」のインパクト大なジャケットだ。
題して『黒船・ビギニング』。

タイトルの「ビギニング」は、黒船が浦賀に来航したことにより新しい時代の幕開け(ビギニング)のキッカケになったこととともに、スガダイローが愛してやまない「機動戦士ガンダム」劇中で、ララァ・スンが死ぬときに流れる曲名でもある。

先ほど私は「快男児」と形容したが、スガダイローの存在感は、「快傑」という言葉もピタリと当てはまる。
快傑ピアノ人・スガダイロー。

快傑というと『快傑ゾロ』を思い浮かべる人もいるだろうし、特撮TV番組の『快傑ズバット』、あるいは子供に人気のアニメ化もされたマンガ絵本の『快傑ゾロリ』を思い浮かべる人もいるだろう。

いずれにしても「快傑」と名のつく人は、颯爽と現れ、良い意味で現場の空気をぶっ壊し、さらに波茶滅茶にかき乱し、「場」の状態を彼が出現する前とはまったく違った状態に陥れてから爽やかに去ってゆく、そんなイメージがある。

だとするとスガダイローの存在感は「快傑」という言葉が相応しい。
波茶滅茶に剛腕をふるうくせに、常に爽やかさをも湛えた心地よい傑物、それがピアニスト・スガダイローなのだ。

前作『坂本龍馬の拳銃』で感じられた殺伐とした密集感はやや影をひそめ、『黒船』全体に漂うムードはどちらかというと明るい解放感に満ちている。

このアルバムの収録曲も『坂本龍馬の拳銃』と同日録音なので、おそらくは曲のムードを中心に、「陰の坂本」「陽のペリー」と分けて選曲したのかもしれない。

今回の目玉はヴォーカル入りの《ビギニング》だろう。
先述したとおり、『ガンダム〜めぐりあい宇宙(そら)』で流れる歌だ。

歌が入るまでの演奏はおそらくアルバム中もっとも激しいピアノ、ベース、ドラムの暴風雨。うってかわってベーシスト・東方光のヴォーカルの場面は、張りつめた緊張が一気にほぐれる。この緩急のギャップが面白い。

今回も猛烈な勢いでスタンダードナンバーがコラージュされる《スタンダード》が収録されているが、面白さハチャメチャ度は前作のほうが上回り、今回はアルバムに色を添える程度。
しかし、そのぶん、他のナンバーにおいてのピアノとドラムのコンビネーションは冴えわたっている。

コンビネーションと書くと、ピアノとドラムの一体感のように誤解されるかもしれないが、スガダイローめざすリズムのコンビネーションは、むしろその逆だ。
音と音がピタリと寄り添い過ぎないバラバラさ加減の気持ちよさ。これが、スガダイロートリオが目指しているリズムコンビネーションなのだ。

つまり、ピアノもドラムも別のリズムを繰り出しているようで、その実、接点は失われていないという絶妙なリズムの距離感が、このトリオの持ち味。
特に《黒船》や《マイ・ファニー・バレンタイン》に顕著だ。

ピアノの刻みをあえて無視したかのようなシンバルの刻みは、ズレているようでキチンと接点はある。互いの音に引きずられ過ぎず、自分のペース配分を維持するのは至難の業ではある。なぜなら演奏に参加している人間は無意識にでも聞こえてくる音に反応し、無意識に耳の中にはいってくる音に反応してしまうからだ。

しかし、あえて楽器同士が寄り添い過ぎず、離れ過ぎずな絶妙な距離感を維持しつづけるスガダイロー・トリオのコンビネーションは、スティーヴ・ライヒの現代音楽、たとえば《六台のマリンバ》などで感じられるズレの快感に近いものを感じる。

かといって、すべての演奏が楽器同士の密集感を拒否しているわけでもなく、《スイングしても意味が無い〜セロニアス》などは、三者が一丸となって突進してゆく心地よさが味わえるだろう。
この曲を聴くたびに、私はいつも笑ってしまうのだが、その理由は、ジャズの伝統云々といった重たく格式ばった呪縛を軽くジャンプしているかのような爽快さがあるからだろう。
ハーレム的なストライド奏法とは一線を画する、どことなくニセモノ臭さの漂うストライド奏法はスピード感満点。
ジャズの歴史ですら、ダイローミュージックにとってはカッコいい音を形作る上での「いちアイテム」に過ぎないことが感じられる。

パワフルで波茶滅茶な暴れん坊ピアノ。しかし、70年代のフリージャズに漂う辛気臭さや深刻さを笑い飛ばすような爽快感に満ちているのが、快傑・スガダイローのピアノなのだ。
確かなテクニックと音楽性に裏打ちされた 遊び心を存分に楽しめる一枚だ。
(2009/11/05) 

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