TENOR MADNESS (Prestige)
- Sonny Rollins

  1. Tenor Madness
  2. When Your Lover Has Gone
  3. Paul's Pal
  4. My Reverie
  5. The Most Beautiful Girl In The World

Sonny Rollins (ts)
John Coltrane (ts) #1 only
Red Garland (p)
Paul Chambers (b)
Philly Joe Jones (ds)

1956/05/24

昔、寄席に行ったことがある。

お目当ての大御所はもちろんトリ。前座は彼の弟子たちが務めていた。
修行中なのだろう、弟子たちの落語の感想を一言で言ってしまうと、固い。身振り、手振り、話しっぷりのすべてが、なんとなくだが、微妙に板についていないので、むしろ客席のほうが緊張してしまうぐらいだ。
彼らには、話の引き出しもあるし、アドリブも効く。客席を湧かそうという工夫も随所に認められるのだが、妙に空振りが多かったりもする。
で、空振りすると場がシラケる。このシラけた空気は、かなり固くて重苦しい。
落語に必要なのは“表層のテクニック”だけじゃないんだなぁということを痛感する瞬間だ。

ところが、弟子の寄席が終わり、真打ち登場となると一気に会場の空気が変わる。
場内を一瞥し、扇子を一振り「いやぁ、今日も暑いねぇ」などと、なんでもない一言を発するだけで、会場がドドッと笑いの渦につつまれ、会場の空気が一気に柔らかくなる。

文字にしたところで、面白くもなんともないようなセリフでも、落語の大御所が自然体で発した一言が信じられないぐらい客席を和ませるのだ。
弟子たちとの貫禄の差を見せ付けられる瞬間だ。
さて、私は《テナー・マッドネス》を聴くたびに、いつも寄席においてのこのギャップを思い出す。

《テナー・マッドネス》。
何の変哲もない「B♭」のブルースだ。
テナーサックス奏者同士が、この曲を題材に互いの技量を出し合い、勝負をするといった趣旨の演奏。
先発がコルトレーン、後発がロリンズ。
いわゆるテナーサックスにおいての“バトルもの”だが、世間的には“ロリンズ圧勝”や、“コルトレーンもロリンズに肉迫”という評価がおおかたのところといったところか。
要は“ロリンズのほうが一枚上手”、「勝ち・負け」で言ったら、“ロリンズの勝ち”といった評価だ。

私もこの判定には、同感だ。
しかしながら、プレイの内容においてではない。
貫禄の差で雌雄が決した感がする。

プレイの内容だけを抽出すれば、コルトレーンだって素晴らしいプレイをしていると思う。
単なるブルースを超えた新しいブルースを感じさせる演奏。
当時のコルトレーンの研鑽の結果が随所に現れている意欲的なソロだと思う。

しかし、どうしてもコルトレーンのソロのあとに登場するロリンズの出だしの数小節を聴くたびに、先に例を挙げた落語ではないが、“大御所登場・弟子退散”の空気がながれる。
もちろん、コルトレーンはロリンズの弟子じゃないんだけどね。年齢でいえば、ロリンズより年上だ。

“わぉ〜、わぉ〜、わぉ〜”とたったの2音をトボけたように繰り返してアドリヴを開始するロリンズ。
べつだん難しいことも言ってないし、立派なことも言ってない。
それこそ、落語家でいえば、「よっこらせ」ぐらいなノリの導入だ。
憎たらしいほどの余裕をかましている。
この一見、本筋とは関係なさそうな導入だけでも、私はロリンズのほうが一枚上手だなと感じてしまう。

コルトレーンのプレイが熱かっただけに、ロリンズの導入部は、一層効果的に聴こえる。
「さーて、私の番がきましたねぇ。えーと、今日は何から話しましょうかねぇ」などと余裕顔でアドリブを開始するロリンズ。
最初の一音から日々の練習の成果を一気に吐き出そうとするコルトレーンとは好対照だ。

ロリンズという人はいきなり核心を突こうとはしない。
軽い世間話からスルリと本筋に入り、いつのまにか話の核心にはいる頃には、聴衆はすっかりロリンズの語り口の虜になっているという感じ。
あるいは、吹きながら、まさにその瞬間に「さーて、今日は何をどう吹こうかなぁ」なんて考えているような節もある。
天性のアドリブ人間なんだろうと思う。

そして、ロリンズ・ファンは、彼のいきなり核心をつかないところが好きな要因の一つだったりもする。
コルトレーンの場合は、いきなり核心を突こうとして言葉を発する。そして、自分の言葉が相手に届かないと思いきや、何度も何度も同じ内容を言い直すタイプのプレイをする。

テナーサックスという同じ楽器奏者ながら、両者の資質の違いはほとんど対極といっても良いほどだ。
そして、この違いが浮き彫りになった興味深い録音こそ『テナー・マッドネス』なのだ。現存している彼らの共演盤(競演盤)もこれしかないし。

それにしても、後半の4小節交換で、必死に追撃をかけるコルトレーンを余裕でかわし、軽くはぐらかし、わざと話をそらし、時には強烈な倍返しをくらわせるロリンズは痛快だ。本当、この余裕は憎らしいぐらいにカッコいい。

《テナー・マッドネス》以外のテイクは、コルトレーンの抜けたロリンズ・カルテットといった趣き。
リズム隊が当時のマイルス黄金のクインテットの3人なので、サポートの良さは折り紙付き。
コンパクトにまとまった《ポールズ・パル》が好きだ。
(2003/04/26) 


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