TIME WAITS (Blue Note)
- Bud Powell

  1. Buster Rides Again
  2. Sub City
  3. Time Waits
  4. Marmalade
  5. Monopoly
  6. John's Abbey
  7. Dry Soul
  8. Sub City (alternate master)
  9. John's Abbey (alternate take)

Bud Powell (p)
Sam Jones (b)
"Philly" Joe Jones (ds)

1958/05/24

怖いパウエル。
不安定なパウエル。
ドライ過ぎるほどドライなパウエル。
恐ろしいパウエル。

『タイム・ウェイツ』のピアノは、そんなパウエルの典型だと長年思って いた。

とくに、鬼気迫る《バスター・ライズ・アゲイン》のピアノの音色。
右手と左手をユニゾンで同じ音を鳴らしているテーマの旋律は、簡素ながら、ぶっきら棒、かつ強引なタッチ。
しかも、時折、右手と左手のユニゾンの均衡が乱れ、より一層音に緊迫感が加わる。

さらに、そのタッチの強靭さからか、ピアノの音にディストーションがかかってしまったほど歪んだ音が怖い《ドライ・ソウル》。

いったい、この強引で恐ろしい空間っぷりはなんなんだ!?

『タイム・ウェイツ』は、パウエルの中でももっとも特異な位置にあるアルバムなのだ。

しかし、この認識が多少変わる出来事があった。

昨年の夏、ジンで酔った頭にガツーンと気合を入れようと、近所のバーにこの音源を持っていって大音量でかけてみたときのこと。

1曲目の《バスター・ライズ・アゲイン》が流れ出した途端、タイミングよく、近所のスナックから、酔っ払いのおばちゃんがやってきて、《バスター・ライズ・アゲイン》のリズムに合わせて、千鳥足でステップを踏み始めたのだ。

おばちゃんの身体の動きはぐにゃぐにゃ。
顔はぐしゃぐしゃ。
足はもつれて、今にも倒れそう。

辛味の効いたピアノの音とともに、一瞬、ものすごく不気味な光景に感じてしまったというのが、偽らざる本音。
店の空気も一瞬凍りついたことは言うまでもない。

しかし、おばちゃんの顔を見ると、心の底から楽しそうなのだ。

へぇ、怖いと思っていた《バスター・ライズ・アゲイン》が、こうも狂気と狂喜が入り混じったシュールな光景を演出するとは……。

長年「怖ぇ〜」と思っていたパウエルの演奏に対する固定観念がガラガラと音を立てて崩れていった。

間違ってもコミカルで楽しい曲でも演奏でもないが、それを遥かに超越して、怖さの先にある、意味がありそうで無い、不思議で新たな境地を見出してしまった。

恐るべしパウエル、恐るべし酔っ払いのおばちゃん。

3曲目のタイトル曲は、雑な演奏ながらも、やはり乾いていながらも不思議な安堵感を感じる。
おばちゃんの踊りも、この曲にさしかかる頃にはひと段落。
焼酎グラスを片手に、静かに聴き入っていた。
(2007/01/20) 


私のパウエル初体験が、このアルバム。
ジャズに入門して、すぐに買ったアルバムだ。
その前に聴いたピアノのアルバムといえば、ビル・エヴァンスの『ポートレイト・イン・ジャズ』だけだったので、同じピアノトリオというフォーマットでも随分雰囲気が違うのだなと驚いた。
と、同時に「すげぇ怖い音楽」だと思った。
もちろん、ジャズ聴き始めの頃の私には、音楽的なことはよく分からなかったのだけど、アルバムの音全体から漂ってくる「雰囲気」に気圧されたのかもしれない。
その「雰囲気」とは、大袈裟に言うなら、「殺気」とか「狂気」といったようなものだ。

パウエルの苦しそうな唸り声。
バシン!バシン!と鳴るピアノのアタックの強さ。
微妙によじれるリズム。
低くうなるベース。
シンバルトップのアタックの強い音。

どれもがエヴァンスのトリオにはなかった要素で、とても「乾いた音」だなというのが第一印象。
ピアノって、普通、右手がメロディを弾いて、左手は和音を押えるものだと思い込んでいたのだが、右手と左手で一緒に同じメロディ・ラインを弾いていること(つまり、ユニゾン)も、「こういう弾き方もあるんだ!」と衝撃だった。
衝撃的というと語弊があるが、要はピアノを昔習っていた私にとっては、右手=メロディ、左手=伴奏という図式が出来上がっていたので、両手で同じメロディをユニゾンで弾くなんて、左手が勿体ないなと思ったものだ。

最初に聴いた印象があまりにも強烈だったために、以後、色々なパウエルのアルバムを聴き漁ったが、このアルバムだけは、どうしても、第一印象が抜けきらず、いまだに「怖いアルバム」として位置付けられている、私にとっては異色のパウエルのアルバムだ。

個人的愛聴曲は、「バスター・ライズ・アゲイン」と、「ドライ・ソウル」。
演奏がすごく乾いていて、凄みがある。
アタックの強い音で、ちょっとヨジレたようなリズムをたたき出すフィリー・ジョーのドラム(このときの彼は不調?)と、重く低くうねる、サム・ジョーンズのベース、これに、アタックの強い、強引なパウエルのピアノがかぶさると、独特な雰囲気が生まれる。

3曲目のタイトル曲、「タイム・ウェイツ」が、このアルバムの中では唯一の「和める」ナンバーだ。
「和める」とはいっても、あくまで、このアルバムの他の演奏と比較した上での話。徹底的に甘さの廃されたバラードだ。
しかし、乾いたタッチの中にも妙に染みてくるものがある。
ほかのパウエルを聴いてしまった耳には、かなり雑な演奏に聴こえるが、不思議なことに、リズムや運指の乱れを聴くと、身をよじりながら、鍵盤に何とか命を吹き込もうともがいているパウエルの姿が思い浮かび、不思議に胸を打つものがある。

パウエルは麻薬と精神病、ことに精神病院での電気ショック療法の弊害で、中期以降のアルバムは、出来不出来の落差が激しい、ということはよく言われる。
おそらく、このアルバムは「不出来」のほうの典型なのだろう。
しかし、「出来・不出来」の域を超えて、私にとってのパウエル原体験のこのアルバムは、かけがえの無いものだ。
そして、欠点やアラをも含めて、このアルバムのパウエルのピアノが好きだし、いまだに、『タイム・ウェイツ』の独特の「怖い」ムードに呑みこまれている自分がいる。

余談ながら、私が何故最初にこのアルバムを買ったのかというと、『ジ・アメイジング・バド・パウエル vol.1』と間違えてしまったから。
『The Amazing Bud Powell vol.4 Time Waits』というのが正式タイトルだが、早トチリをしてしまい、"The Amazing Bud Powell"という文字だけに反応してこの『タイム・ウェイツ』をレジに持っていってしまったからだ。

なぜ『ジ・アメイジング・バド・パウエル vol.1』を買おうと思ったのかというと、「ウン・ポコ・ローコ」という曲を聴いてみたいと思ったから。
入門者の私がお世話になった本は、新潮文庫の油井正一によるアルバム・ガイドだった。

この本では、バド・パウエルのことを「鬼気迫るピアノ」「ウン・ポコ・ローコが凄い」「天才ピアニスト」というような表現で紹介されていて、とても興味が沸いたので。

白黒で小さく印刷されたジャケットと、決して満足な分量とはいえない活字の一言一言から、あれこれと想像をめぐらせて、本当に欲しいジャズのCDを一枚に絞り込んで購入していた当時が懐かしい。
金銭的に多少の余裕が出てきた現在では、一度に何枚もドバッとアルバムを購入することが当たり前になってしまったが、昔は少ない予算で、迷いに迷ってアルバムを購入していた。

そういう思いで買ったアルバムは一生懸命聴いていたし、この時期に聴いていたアルバムが、結局は一番今の自分の血肉になっているような気がしてならない。
もちろん、パウエルの『タイム・ウェイツ』も、その中の一枚だ。
(2002/04/02) 

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