PIANO QUINTET SUITE (Somethin' Else) |
| - 大西順子 |
|
|
大西順子 (p) Marcus Belgrave (tp&vo) 林 栄一 (as) Rodney Whitaker (b) Tony Rabeson (ds) 1995/07/07-11 |
|
|
|
マクリーンの『ハット・トリック』のところでは、“彼女は基本的にはピアノトリオが似合う人”などということを書いてまったが、この『ピアノ・クインテット・スイート』を改めて聴き返すと、なかなかどうして。全然そんなことないよなーと反省することしきり。 このアルバムのホーン入りのアンサンブルは、とても力強くダイナミック。 彼女のトリオを“武装強化”し、よりスケールアップした面持ちのサウンドには、ただただ圧倒されるばかりだ。 よく練られたアレンジで、もちろん主役はピアノだが、ピアノとホーンが互いを引き立てあって、とても力のある素晴らしいサウンドを作り上げている。 エリントンやミンガスのサウンドが彼女の表現の視野に大きく入っていることは間違いない。 それは《ペギーズ・ブルー・スカイライト》、《オレンジ色のドレス》、《A列車で行こう》といった彼らのナンバーを取りあげていることよりも、彼女の音楽の色彩が、エリントンやミンガスのように分厚く、重く、立体的なものだからだ。 大西のオリジナルで、一曲目のタイトル曲を聴けば、それはよく分かる。 ミディアムテンポとハイ・テンポを縦横無尽に行き来する演奏の緩急と、これでもかと降り注ぐダイナミックな分厚い音塊のシャワー。 クインテットという小振りなフォーマットにもかかわらず、この音の分厚さと迫力は、ビッグバンドのそれに匹敵する。 これは、もちろん彼女やサイドメンたちの演奏の技量に負うところも大きいことは言うまでもないが、それ以上に彼女の敷いたレール=音楽的なフォーマット、そしてそのレールの目指す地点がエリントンやミンガスの油絵のように色彩豊かで重厚な音像だということは明らか。 タイトル曲の《ピアノ・クインテット・スイート》は長尺の演奏だが、変化に富んだスリリングな展開ゆえ、一瞬たりとも飽きる瞬間がなく濃密な時間が半ば強引に耳の穴にねじ込まれるてゆく。 これは間違いなく作曲・アレンジ・演奏ともに、三拍子揃った彼女の最高傑作と言ってもよいだろう。 一曲目の勢いを引きずるかのように始まる《ペギーズ・ブルー・スカイライト》も凄い迫力だ。 個人的にはミンガスの『ミンガス・イン・ヨーロッパ』の演奏が大好きなのだが、それに迫る、いや、もしかしたら全員一丸となった一体感と勢いでは、それを上回った演奏かもしれない。 特にトニー・ラベソンのドラムが凄く、荒くれながらも演奏を的確に鼓舞している。 出来るだけ大音量で楽しみたい演奏だ。 《インタルード1》と《ナチュラリー》は、ド迫力のナンバーが立て続けに2曲続いた後のクーリング・ダウンとしての配置としては適切かもしれないが、あまりにも冒頭の2曲が圧倒的だったために、個人的には物足りなさを感じる。 しかし、ハードな《インタルード2》に続く嵐の前の静けさとしては悪くないかもしれない。 《トロピック・オブ・カプリコーン》は、ピアノのリフと、それに絡む二本のホーンのアンサンブルが印象的なナンバー。 力強いシングルトーンで疾走する大西のピアノが格好いい。 ブルースの《トニー》はリラックスした雰囲気が楽しめる。 《オレンジ色のドレス》は、個人的には大好きなミンガスのナンバー。 この演奏を聴くと、彼女は実によくミンガスを理解しているなと思う。いや、それ以前にミンガスのことが大好きなんだということが伝わってくる。 演奏自体は、このクインテットならではの新しいアプローチというものは感じられなく、悪く言えば“ミンガスのコピー”に終始しているが、それでも良いではないか。何よりも、ミンガスの曲が持つ、ミンガス特有の「気分」をうまく再現しているのだから。 私はいつも思うのだが、大西順子はプレイヤー以前に純粋なる「ジャズ・ファン」なのだと思う。なにせ取りあげる曲の一つ一つがジャズマニアのツボをくすぐるような佳曲が多いのだ。 この選曲センスの良さゆえ、そういえば、こんな名曲があったよな、と感心することが多い。 『ワウ』におけるセロニアス・モンクの《ブリリアント・コーナーズ》やオーネット・コールマンの《ブロードウェイ・ブルース》、『クルージン』における、同じくオーネットの《コンジーニアリティ》や、ソニー・ロリンズの《ブルー・セヴン》などは、「うーむ、なんて渋い選曲なんだろう」と唸った記憶がある。 言うまでもなく《オレンジ色のドレス》も、それと同じようなセンスの光る選曲だと思う。 ラストの《A列車》は、トランペットのロドニー・ウィテッカーのサッチモを彷彿させるヴォーカルが楽しい。 ガンガンとピアノを弾きまくる大西順子と、アルトとトランペットという2本の管楽器が、とてもうまい具合に溶けこみ、まとまったアルバムだと思う。 そして、彼女の代表作を一枚選ぶとすれば、迷うことなくこのアルバムを選びたい。 大西のピアノに耳の焦点を当てたければピアノトリオもいいが、音楽全体をガツン!と感じたいときは、迷うことなく、この1枚。 |
| (2002/10/14) (2006/08/02 加筆) |
|
|
|
|
All Rights Reserved. |