ENTRY
- Linda Oh

  1. Morning Sunset
  2. Patterns
  3. Numero Uno
  4. Fourth Limb
  5. Gunners
  6. A Year From Now
  7. Before the Music
  8. 201
  9. Soul to Squeeze

Linda Oh (b)
Ambrose Akinmusire (tp)
Obed Calvaire (ds)

2008/11月

優れた聞き手は、あいづち上手であり、また、問いかけ上手でもある。

リンダ・オーのアルバム『エントリー』を聴くと、彼女は優れたベーシストであると同時に、優れた聞き手なのだということがよくわかる。

彼女の“話し相手”のトランペッターは、セロニアス・モンク・コンペティションでの優勝歴もあるアンブローズ・アキンムシーレ。
メロディアスで、よくここまでメロディが湧き出てくると思うほど、様々な語り口で、聴き手を飽きさせずに、様々なメロディを“語る”。

きっと、リンダの「私はこう思うけれども、あなたはどう?」という問いかけが巧いのだ。
彼女の問いかけ、すなわち、短いベースのリフレインがアンブローズをどこまでも誘発しているのだ。

もちろん、ベーシストがリーダーのアルバムということもあり、ベースソロのスペースも多いアルバムではあるが、彼女のベースソロを聞いていると、メロディメーカーというよりは、音のコピーライターという気がする。

起承転結のある長いソロを流麗に奏でるのではなく、どちらかというと、印象的な短いフレーズの堆積がそのままソロを形成している印象を受ける。

長めのソロをとる演奏も、上手に演奏の基調をなすモチーフを発展させてゆく展開ゆえ、決して多くのことを喋ろうとはしない。
重要なことほど、要点を短くまとめて繰り返し強調する語り口だ。

しかし、この短いメロディの断片が非常にスリリングで、潔さすらも感じられる。

バッキングに回ったときも、リンダは、饒舌なラインはほとんど奏でない。
むしろ、無骨で短いフレーズの反復でフロントやドラマーを触発する。

4曲目の《フォース・リム》にいたっては、単音のオクターブの反復中心でテーマのアンサンブルを形成しており(そこにいたるハイポジションで奏でるイントロが刺激的だが)、とにかく、ここまで短くシンプルな低音で、ここまで共演者を触発し、挑発するベーシストも珍しい。

ベースの録音が素晴らしいことも、このアルバムで特筆すべき事項の一つだ。

パンチのある低音に加え、ウッドベース本来のウッディなニュアンスも無理なく封じ込められている。
時折聴こえる弦が指板にバチン!と当たる音もリアルで生々しい。

このアルバムは、華麗なソロを奏でることばかりに執心しているベーシストには、是非、耳を通してもらいたい内容だ。

メロディアスなソロを取ることも「巧いベーシスト」の条件の一つなのかもしれない。
しかし、その方向ばかりに気が向いているベーシストには「努力の方向が間違っているよ」とまでは言わないが、べつにベースという楽器でなくても出来ることに費やすエネルギーを、もう少し他のことに向けられないのかという気付きを得るキッカケにはなるかもしれない。

アンサンブルの中での触媒となり、センスの良いシンプルな低音で共演者を触発する役割を担うのは、ベースにしか出来ないこと。
リンダ・オーの『エントリー』は、ベース本来の役どころを、教えてくれるアルバムなのだ。

アジア系女性ベーシスト、リンダ・オーのベースは、どこまでも太く、センスが良い。

欧米人が思い描くであろうニッポンのニンジャのステレオタイプをイラスト化したジャケットのアートワークも秀逸。
(2010/09/13) 

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