ANITA SINGS THE MOST (Verve)
- Anita O'day

  1. 'S Wonderful〜They Can't Take That Away From Me
  2. Tenderly
  3. Old Devil Moon
  4. Love Me Or Leave Me
  5. We'll Be Together Again
  6. Stella By Starlight
  7. Taking A Chance On Love
  8. Them There Eyes
  9. I've Got The World On A String
  10. You Turned The Tables On Me
  11. Bewitched

Anita O'day (vo)
Oscar Peterson (p)
Herb Ellis (g)
Ray Brown (b)
Milt Holland (ds)
John Poole (ds)

1956/05月

黒人シンガー、たとえばサラ・ヴォーンのような歌手の歌声は、喉の奥で納豆が糸を引いているんじゃないかと思うほどの粘り気と重量感がある。

節回しや、フレーズの繋がりのネバッとした独特なフィーリングは、ジャズの魅力が凝縮されているように感じられる。

ところが、サラとは声も歌い方も対極に位置する、白人ヴォーカル、アニタ・オデイの歌にも、ジャズ独特のフィーリングを強烈に感じることが出来る。

このアルバムでは、ジャズではお馴染みなスタンダードをスイング感たっぷりに歌いまくるアニタを存分に楽しむことが出来る。

センスの良い伴奏を務めるオスカー・ピーターソン以下のリズムセクションも、ピッタリと息の合ったまとまり。
溌剌としたリズム隊をバックに、独特なハスキーボイスと、抜群のリズム感を誇るアニタのヴォーカルは絶好調。

一言、かっこいい!

映画『真夏の夜のジャズ』にもアニタが白昼堂々と屋外で歌い、観客を魅了してゆくシーンがあるので、興味のある方には、是非一度ご覧になることをオススメしたい。

私は、この映像を観て、一発で虜になったクチ。

映像を観てから、再び『シングズ・ザ・モスト』を聴けば、アニタの華奢な身体から発散される姉御(アネゴ)のカンロクたっぷりのオーラをよりいっそう肌身に感じながら、彼女の歌声に身をゆだねることが出来ると思う。

なにはともあれ、傑作、傑作。すばらしいアルバムだ。
(2009/05/07) 

オーディオには門外漢の私が、単に好みの問題だけで天に唾するようなことを書いてしまう。

「日本一の音」を聴かせてくれるジャズ喫茶ということで評判の、一ノ関の「ベイシー」。
私はこの店に、旅の折りに何度か足を運んだことがある。

女房が旅行の直前に体調を崩した関係で、1歳になったばかりの息子と“東北二人旅”をしたこともあるが、その際にも「ベイシー」に立ち寄った。
クリフォード・ブラウンがかかると、息子が膝を叩いてリズムを取り始めたのがウケたのか、ヨックモックのチョコクッキーをサービスでいただいたりと、なかなか気の利いたお店です(笑)。

一ノ関の駅から、徒歩で10分ぐらいで辿り付ける場所にあるが、タクシーに乗り「ベイシー」と告げれば、どのタクシーも二つ返事でワンメーターで乗せていってくれる。

蔵を改造した店の二重のドアをくぐり抜けると、そこはもう異空間。
暗めの照明に、落ち着いた内装の店内。
そこで大音量でかかっているジャズを浴びれば、今まで車中で見慣れてきた田んぼや、山などの景色が一掃され、一瞬だけ、都会に引き戻された不思議な気分になる。

噂に違わず、迫力のサウンドは、すぐそこで本物の楽器が鳴っているんじゃないかと錯覚するほどの臨場感だ。
どちらかというと「聴く」というよりは、音を「浴びる」という感覚に近い。

部分照明付きの、お洒落なテーブルの前に腰かけ、遠くまで来たなぁという感慨に浸りながら、落ち着いた気分でジャズを浴びるのは至福のひと時だ。

そんな素晴らしい店だが、唯一、オーディオにはズブの素人の私が、一点だけ不満を挙げさせてもらうと、そして、多くのマニアの方から、「分かってないなぁ、お前の耳は大したことないなぁ」と指摘されることを承知で、この店の音に関して、私なり感想を言うと、「低音がこもっている」ように感じる。

これは、好みの問題が非常に大きいし、私が店にいるときにかかった音源が、たまたまそういう録音の盤だったということも十分考えられるし、座った場所の問題もあるだろうが、店を訪れるたびに、私が漠然と感じる低音の感触は、「低音」というよりは「重低音」と表現したほうが的確だ。
この重低音は、たしかに凄い迫力だが、ベースの音程や、演奏者によって異なる微妙なベースの音色の違いを識別出来るような「低“音”」ではなく、どちらかというと「低“振動”」に近い。

低い周波数帯のあらゆる音が一点に集中し、巨大な空気のカタマリとなってこちらの腹にズドン・ズドンと打ち込まれてくるような迫力がある。この感触は中々心地が良い。
しかし、ベースを弾いていると、どうしても耳がベースを追いかけてしまいがちで、私なりの「ベース耳」でベースの音を追いかけると、音程が分かりづらく、なおかつ胴の振動ではなく、弦の震えた瞬間の空気感のようなものが感じ取れず、低い空気の塊が、4ビートのリズムに合わせて上がったり下がったりしているだけのように感じられた。

オーディオに詳しい人によると、「オーディオに全部を求めちゃダメ!」なのだそうだ。

低音も、中域も、高域も等しくリアルに再現したい、という欲望を抱いても、それは無理な相談で、自分が求める音域をもっとフォーカスしてゆかないとダメなようで。
自分はどの音域をどういう音質で聴きたいのか。
こういった「自分にとって理想のサウンド」イメージを明確に抱き、そのイメージに少しでも近づける努力と工夫と一喜一憂こそが、オーディオの楽しみなのだそうだ。

そのことから考えると、あくまで私の推測だが、「ベイシー」の音作りは、高域に合わせてチューニングされているんじゃないかと思う。
高音域の音の芯の強さと迫力には筆舌に尽くしがたいものがある。

クリフォード・ブラウンのトランペットなど、まさに「金粉を撒き散らして天に飛翔するような音色」だったし、ケニー・バレルの『アット・ザ・ヴァンガード』にいたっては、ピックと弦が触れた瞬間や、音色が立ち上がる直前のピックと弦が「カサッ!」と擦れる音までもが、本当にリアルな感触で耳に響いてきた。これには本当に驚いた。
ただ、弦の音はとても生々しい感触だったにもかかわらず、ベースの音が大きな低振動のカタマリ状態だったので、やっぱり、オーディオマニアの「全部求めちゃダメ」の格言(?)通り、高域も低域も万遍なくリアルに再現することは無理な話なのかもしれない。

「ベイシー」という店の名の通り、マスターは大のカウント・ベイシー好き。
マスターの著作を紐解くと、ベイシー楽団御一行が、この店にやってきたこともあるし、マスターは、ベイシー本人から「スイフティ」というニックネームも頂戴しているそうだ。

カウント・ベイシーといえば、編成を縮小した時期はあるにせよ、基本はビッグバンド。

ビッグバンドの花形楽器といえば、いつの時代もトランペットだ。
ということは、「ベイシー」再生の照準は、トランペットの高音に合わせているのかな? というのが、私の穿った考え。

それほど、「ベイシー」のスピーカーから出てくる高音域の力強さと、煌びやかさは圧倒的だと思うのだ。

さて、そんな「店の音」が特徴な「ベイシー」で聴いたアルバムの中で、印象深かった一枚が、アニタ・オデイの『アニタ・シングズ・ザ・モスト』だ。

このアルバムは、ジャズ・ヴォーカルの中では、聴く頻度の高いアルバムだった。
オスカー・ピーターソンのイントロの付け方や、伴奏のセンスが光っているし、選曲が有名なスタンダードばかりだというのが大きな理由かもしれない。

しかし、「ベイシー」でかかった『アニタ・シングズ・ザ・モスト』は、普段聴いているアルバムと同じものとは思えないほど衝撃的なサウンドだった。

ドラムのブラシが凄いのだ。

スネア・ドラムの皮の上を這うブラシの音が、力強く、弾力的で、まるで生き物のようだった。
まるでブラシのワイヤーの一本一本に、生命が宿っているんじゃないかと思うほど躍動的なブラシのサウンド。
家で聴くときは、アニタの声か、ピーターソンのピアノしか聴いていなかった私にとって、この生々しいブラシの音は新発見だった。

そうか、このアルバムはブラシが凄いんだ!と旅から帰って、自宅でこのアルバムを再生したときは、まったくブラシが生きていなかった。
アニタのはるか後方で、カサコソとショボくうごめいているだけ…。さすが、「ベイシー」だなぁと思った次第。

ちなみに、アニタ・オデイの声は、ハスキー・ボイスが特徴だが、よく聴くと、かなり粘りのある声だということにも気がつく。
「始めハスキー、あと粘り」
この歌声の魅力にハマると病みつきになること請け合い。
(2002/07/16) 

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