PLAYING NEW YORK
(T & K エンタテインメント)
- 松本 茜

  1. Playing
  2. Twilight
  3. StellBa by Starlight
  4. Wheat Land
  5. Relaxin' At Camarillo
  6. Juicy Lucy
  7. I Should Care
  8. Cella
  9. My Dear
  10. Sunset And The Mockingbird

松本 茜 (p)
Nat Reeves (b)
Joe Farnsworth (ds)

2009/10月

ファーストアルバム『フィニアスに恋して』で、女子大生ピアニストとして華麗にデビューしたのもつかの間、2010年春には大学も卒業。いよいよ「学生」という枕が外れ、ジャズピアニストとして独り立ちしてゆく松本茜。

卒業前年の2009年の秋、ニューヨークに渡り、現地のベテランリズムセクションを従えて録音した作品が『プレイング・ニューヨーク』(写真下)だ。


私がパーソナリティをさせていただいているラジオ番組「快楽ジャズ通信」には、ゲストとして3度のご出演をいただいているので、その都度、ピアニストとして彼女が目指す方向、表現について、色々とお話を伺っている。

小学生のときにオスカー・ピーターソンを聴いてジャズピアノに目覚め、バド・パウエルなど様々なピアニストを聴いてゆくうちに出会ったお気に入りのピアニストがフィニアス・ニューボーンJr.。

小学生のときに『ワールド・オブ・ピアノ』の《ダフード》を聴いて衝撃を受け、ジャズをやりたいという心に強く火が点ったのだという。

高校生の頃は、をウォークマンでフィニアスを聴きながら通学していたほど、“フィニアスに恋して”いた。

私は番組ではフィニアスのことを“無愛想なオスカー・ピーターソンのようなピアノ”と評したが、やはりフィニアスといえば、斬れ味の鋭いピアノを弾くと同時に、バド・パウエルにも通ずる、どこか狂気じみた雰囲気をも放射する、いわば“ピアノの鬼”という称号がふさわしいピアニストでもある。
そんな彼のどこに茜ちゃんは惹かれたの?

「やっぱり超絶技巧ですね。普通の人だとここまで弾けないだろうというぐらいにピアノを弾く。そこが、フィニアスに惹かれたキッカケでした」

ピアニスト・松本茜にとって、フィニアス・ニューボーンという存在は、憧れと同時に、ピアニストとして目指すべき目標でもあるようだ。

さて、新作の『プレイング・ニューヨーク』。
前作にも増してピアノの音に重みと斬れ味が増している。

ベースが若干こもり気味にも感じるが、かえって音全体の重心がグッと下がり、前作のキラキラしたムードとは一線を画する、鈍い艶消しの重さを放っている。

この雰囲気は、特に1曲目の《プレイング》において顕著で、重厚な低音からスタートするテーマは、ズッシリとした手ごたえ。
ジャケ写の笑顔につられてニヤけていると、思わぬ痛烈なパンチを食らうことになるだろう。

このアルバムの看板曲ともいえる《プレイング》は彼女のオリジナルだ。
「タイトルの由来は?」と質問をしてみると、
「高校時代に、ビ・バップのメロディってこんな感じかな? とピアノで遊びながら弾いているうちに出来た曲なんです」とのこと。

遊んでいるうちに出来てしまう。
やっているうちに形になってくる。
ことジャズマンが作曲するリフナンバーには、このような曲が多い。
そして不思議なことに、メロディメロディした、ミュージカルや映画曲が出自のスタンダードナンバーよりも、硬派でジャジーな雰囲気をたたえた曲が多いことも特徴で、“遊びながら”出来てしまった《プレイング》も、その例に漏れず、どこを切ってもジャズなムードをたたえている。

《シリア》や《リラクシン・アット・カマリロ》は日常行われるライブで磨かれてきたナンバー。
ホレス・シルヴァーの名曲《ジューシー・ルーシー》は、おそらく『ワールド・オブ・ピアノ』への敬愛の念のあらわれだろう。

エリントンナンバーの《サンセット・アンド・ザ・モッキンバード》や、スタンダードの《星影のステラ》も織り交ぜつつ、オリジナルの《マイ・ディア》でほっと一息。

私は、前作の《ストーリー》や《ハーフ・ブラッド》のような“茜オリジナル”が結構好きで、《ハーフ・ブラッド》にいたっては番組のエンディング曲に使用しているほど、茜的作風の虜となっている。

茜曲の多くには、どこか「ほっ」とさせる要素があり、今回の『プレイング・ニューヨーク』の《マイ・ディア》がまさにそれに当たる。

さりげない旋律の中に、様々な風景が立ちあらわれては消えてゆく。ボサ調のリズムをバックに、微妙にタメを効かせたタッチで奏でるテーマと、必要以上の情感を込め過ぎずに演奏が進む《マイ・ディア》は、聴き手の気分を映し出す鏡のような演奏だ。

必要最小限の音でボトムをストイックに支えるナット・リーヴスのベースと、細やかに、しかしさりげなく臨機応変にリズムの色を変えてゆくジョン・ファンズワース。

このような一見地味な演奏にこそ、リズムセクションの底力が現れるものだが、この2人は、実に精妙にピアノの“気分”を受け止めたサポートぶりを発揮している。

淡々とした演奏にも聴こえるかもしれないが、この淡々さからは、かえって様々な風景が浮かび上がってくるのだ。

個人的には、《マイ・ディア》は、《プレイング》とともに、このアルバムのベストナンバー。

前作の『フィニアスに恋して』でもそうだったが、彼女はいい曲を書く。
過去のジャズマンの定番ナンバーもいいが、もっとオリジナル曲をたくさん作り、発表して欲しいと思う。

NYでの録音は、1日で終えたそうだ。

「あとで、“あの曲のあの部分はもっとこう弾いておけばよかった”と後悔とかはしないの?」
という私のヤボな質問にたいして、
「その日の演奏は、その日の私がプレイしたかったことだから、あまりそういうことは考えません」
と返してくれた茜ちゃん。

「起きてしまったことは、起きてしまったこと」と腹をくくれる潔さ。

この潔さこそが、テクニック、表現力以上にジャズマンが持つべきもっとも大切な資質だと思う。

フィニアスの超絶テクニックに憧れ、ピアノの技術に磨きをかけてきた彼女だが、いつのまにか技術とともに、ジャズマンにとって最も大切な要素が自然と備わってきているようだ。

すでに高校時代には、バークリー音楽大学の学費全額免除の試験に合格しつつもそれを蹴り、国内での活動に重点を置く選択をした松本茜。

日々ライブ活動を繰り返し、自己名義以外でのレコーディングも数枚発表している。

このように場数を踏み、現場で鍛えられてきた彼女は、自然と音楽に臨む潔さが身についてきたのだろう。

こと“現場感”の強いジャズという音楽。
ジャズの演奏において大事な心構えは、彼女のピアノや、演奏に臨む心意気を聞くと、良い演奏と、名門ジャズ学校に行くことはあまり関係ないのだということがハッキリと分かる。
このような心意気、物怖じしない精神などは、学校ではもっとも学べない事柄だからだ。

『プレイング・ニューヨーク』は、今後の成長がますます楽しみなピアニストの進化成長過程の1ページ。
1stでフィニアスに恋をして、2ndでニューヨークに飛び立ったピアニスト・松本茜。
次のステージはどのような展開を見せてくれるのだろう?
早くも今から楽しみだ。
(2010/01/19) 
写真協力:tommy (Scott LaFaro) 

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