白人サックス奏者、そして作編曲家でもあるギル・メレのリーダー作。
彼はテナーも吹くが、このアルバムではバリトンのみで臨んでいる。
ブルーノート1517番のアルバムだが、一瞬、これって本当にブルーノート?と思ってしまうほど抑制の効いた端正な演奏が続く。
ブルーノートの作品に私が抱いているパワーと重量感のあるサウンドとはひと味もふた味も違う内容だからだ。同じ楽器だからというわけでもないが、ジェリー・マリガン的なサウンドの肌触りを感じてしまう。
東海岸の黒人ハード・バップというよりは、西海岸の白人ジャズのテイストに近い。
しかし、ブルーノートらしからぬ印象を受けつつも、じつはブルーノートのサウンドのクリエイターで録音技師のルディ・ヴァン・ゲルダーと、ブルーノートの社長のアルフレッド・ライオンを引き合わせた作品でもあるのだ。
ギル・メレのサウンドに惚れ込んだアルフレッド・ライオンは、トライアンフ・レコードに録音された4曲の音源を買い取り、さらに4曲を新たに録音して、8曲を収録した10インチ盤として出そうと考えた。
ライオンは、4曲が入ったレコードをあるエンジニアのところへ持って行き、このサウンドで録音して欲しいと頼んだが無理だと断られてしまった。そこでギル・メレの紹介で訪れたスタジオがルディ・ヴァン・ゲルダーのスタジオ。
最初は気乗りのしていなかった彼も、ゲルダーが過去に録音したテープを聴くうちに彼のサウンドを大いに気に入り、以来、ライオンとゲルダーのコンビがブルーノートの“あのサウンド”を次々と世へ出してゆくことになった。
私が“ブルーノートらしからぬ”と感じているサウンドこそが、実はブルーノートのオーナーが求めていたサウンドだったことを知ったときは、驚きだったし、何より自分の聴き込みの浅さが恥ずかしくなってしまった。
リズム陣はパワフルな黒人ジャズマンにもかかわらず、アレンジ重視なサウンド、そしてリーダーの求めるテイストを反映させると、ここまで穏やかな演奏になるものかとちょっと驚き。アレンジはかなり込み入った複雑な構造になっているにもかかわらず、とてもスッキリとしたまとまりがある。
これも演奏者の力量によるものだろう。
特にそれは整然としたリズムに負うものが多いと思う。もちろん躍動感のあるリズムだが、どちらかというと、フロントを立てる“聴こえないリズム”に徹しているような感じがする。
その“聴こえないリズム”の一員が、もう一人。
ギターのジョー・シンデレラだ。
彼のギターも、控えめなサポートをしているため、ボーッと聴いていると、中々耳に引っかからない。
しかし、ギターに耳を集中させると、控えめながら、非常に的を得たバッキングが聴こえてくる。
そして、一度ギターの音が聴こえだすと、彼のセンスの良いギターワークがこのアルバムの鑑賞の中心点になってくるので面白い。
ギル・メレのバリトンは、少しフレーズの細かいところが捩れて聴こえる箇所もあるが、終始落ち着いたトーンは崩れることがない。
しかし、穏やかさの中にもしっかりとした主張も感じられる。
フレーズの組み立ても、細心の注意を払って、細かいメロディのユニットを丁寧に積み上げてゆくといったアドリブに感じられる。
個人的には、ラストの《ロング・アゴー・アンド・ファー・アウェイ》がベストだ。
一番演奏に勢いを感じるし、テーマの「ボワーッ」とした奥行きのあるバリトンとトロンボーンの音の重ね方も気持ち良い。
地味なサポート役に徹していたジョー・シンデレラも、ここでは存在感のあるギター・ソロを披露している。
趣味の良いジャケットデザインもギル・メレ自身によるもの。彼はデザイナーでもある。