ジャズで聴くバッハ (Columbia Music Entertainment) |
| - 松本 茜 |
|
|
松本 茜 (p) 山下弘治 (b) 松尾明 (ds) 2008年 |
|
|
|
先日、住信SBIネット銀行に問い合わせの電話をした。 すると、電話の保留音に使用されている音源は、どこかで聞いたことのあるピアノの調べだった。 このゆるやかな曲線カーブを描きながら、ふうわりとふくよかな音の粒。やわらかな音の粒が中空に浮かびつつも、たしかなる安定感。 このピアノの主は松本茜かな? なんて思いながら、さらに音に耳を澄ませると、この独特な八分音符のタメと、装飾音符の引っ掛け方は、うん、間違いなく松本茜ちゃんだ! さらに、だいぶ後になってから、曲目はバッハの《主よ、人の望みの喜びよ》だということに気がついた。 演奏の特徴からミュージシャンが判明して、その後しばらくたってから曲名が判明するところは、まさにジャズ聴きならではの脳の回路なんだろうけど、恥ずかしながら、電話を切った後、頭の中でさきほど記憶しておいたメロディラインを反芻してはじめてバッハの曲だと気がついたのだ。 ということは、松本茜が演奏するバッハは、「バッハ色」よりも「茜色」がより色濃く演奏されているといっても過言ではないだろう。 ジャズとバッハの融合といえば、オイゲン・キケロの『ジャズ・バッハ』が有名だが、同じバッハを題材としたジャズでも、随分と趣きは異なる内容だ。 キケロのバッハはカラフルで煌びやかなイメージが強いが、松本バッハはキケロの演奏に比べると、もう少し安定感が感じられる。 それは、山下弘治のベースに、松尾明のドラムという、ベテランのリズムセクションに手堅く支えられていることも無関係ではないだろう。 このアルバムは松本茜名義ではなく、ニューロマントリオの名義になっている。つまり、先述した山下弘治(b)、松尾明(ds)のトリオとしてのアルバムというわけだ。 同タイミングで発売された『ジャズで聴くバカラック』にしてもそうだが、このグループの持ち味は、一にも二にもリズムの安定感だと思う。 思いきった冒険や、派手なインタープレイはないものの、聴き手に安心感をもたらし、なおかつその上で音楽の愉しみを提供しようという姿勢が一貫しているので、とても聴きやすい演奏ばかりだ。 この『ジャズで聴くバッハ』に関しては、発売タイミングに合わせて、以前やっていたラジオ番組で企画し、特集枠を設けて放送したことがある。 もちろんその時には松本茜さんにもゲスト出演をしていただいた。 茜さんはバッハに造詣が深いものかと思いきや、子どもの頃からジャズ道一直線だった彼女にとっては、バッハはそれほど深く傾倒した音楽家ではないということが話しているうちに分かった。 しかしだからこそ、自由奔放なバッハの演奏になったのだと思う。 バッハはこうあらねばという既成概念や、知れば知るほど無意識に雁字搦めかつストイックに陥ってしまいがちな「ねばならない」のスパイラルに陥ることなく、彼女の演奏はみずみずしく、自然体で呼吸をするようなピアノの音粒がのびのびと空間に飛翔を続けているところが特徴。 だからこそ聴いていて気持ちがよい。 もっとも、多くの重度なジャズマニアが無意識に求めがちな、聴き手のマインドの奥底にグイグイ迫ってくる、おっかな恐ろしい要素は皆無ではあるが。 しかし、だからこそネット銀行の保留音楽にも使用されているのだろう。 軽やかなだけではなく、しっかりと地に足のついた、柔軟なピアノトリオが放つ、気軽に聴けるバッハ。 観賞用としてのみならず、お店のBGMや、それこそ銀行や損保会社などの電話音楽やロビーの音楽にもお客様に安心感を与えられるムードをたたえているので信用第一のビジネスをなされている業種の方は、このアルバムの使用を一度ご検討いただけると良いのではないかと思う。 と、宣伝(笑)。 |
| (2012/01/08) |
|
|
|
|
All Rights Reserved. |