FALLIN' LOVE WITH PHINEAS... (Columbia Music Entertainment) |
| - 松本 茜 |
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松本 茜 (p) 山下弘治 (b) 正清泉 (ds) 2007/11/09 |
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松本茜の持ち味は、ちょっとした「ためらい感」にあると感じる。 たしかに、アルバムタイトルの『フィニアスに恋して』からも分かるとおり、フィニアス・ニューボーンJr.からの影響を色濃く感じる瞬間もあるし、フィニアスのみならず、ハンプトン・ホース的などの“学習”の痕跡は随所に見られる。 しかし、それはあくまでフレーズの話。 話す内容は一緒でも、語り手によって、受け手の抱く印象はえらく変わるものだ。 彼女の語り口は、ニューボーン的なバイタリティ、つまり「前へ前へ」と突き進む肉食獣的なニュアンスではない。 むしろ、少しはにかみながら、言葉を飲み込み、言葉を選び、ちょっと間を置いたうえで、我々にとってもっとも快適な音を紡ぎだしてくれる気遣いが感じられる。 これは、フィニアスの代表曲でもある《シュガーレイ》を聴き比べればよくわかる。 アレンジはロイ・ヘインズのリーダー作『ウィ・スリー』で演奏されているバージョン(ピアノはフィニアス)を下敷きにしていつつも、両者に感じられるニュアンスの違いは、すなわちピアニストが持つ語り口に違いにほかならない。 千葉県の某所に親子2代のバーテンで営業しているバーがある。 おいしいジントニックを作ってくれる店だが、お父さんの作る腰の強いジントニックに比べて、娘さんの作るものは、お父さん直伝の同じ作り方であるにもかかわらず、どこかふんわり柔らかで優しい喉越しだ。 だからといって娘さんの作ったものが未熟だというわけでは決してない。 どちらを選ぶかは、それこそお客さんの好みにゆだねるしかないわけだが、 フィニアスと松本の《シュガー・レイ》を聴きくれべていたら、まさに父と娘の作るジントニックの味わいの違いがまさに当てはまるのかもしれない。 このアルバムは松本茜の初リーダー作。 無名に近いピアニストの初リーダー作を世に出すには、「20歳、驚異の新人登場!」という手垢のついたコピーで売り出したところで、「またかよ」とソッポを向くジャズファンもきっと多いことだろう。 しかし、「フィニアス・ニューボーンの影響を受けたピアニスト」という明確なプレゼンテーションがあれば、聴き手はイメージが湧きやすい。聴いてみようかと思うファンも出てくるだろう。 なので、訴求力という点からすればタイトルの『フィニアスに恋して』は正解だと思う。 しかし、彼女のピアノはフィニアスであって、フィニアスであらず。 きちんとフィニアスのコピーではない松本茜ならではのオリジナリティと個性は発揮されたアルバムなのだということはキチンと主張しておきたい。 その個性とは、冒頭でも書いたとおり「ためらい感」だと私は感じるのだ。 特に、私はアルバム中最後の2曲が好きだ。 ひとつはスタンダード。ひとつはオリジナル。 この2曲ほど松本茜の個性を味わうにふさわしい演奏はない(2曲目のオリジナルも彼女らしいテイストに満ちている)。 スタンダードのほうは《オール・ザ・シングズ・ユー・アー》。 これは3拍子のほんわりとしたリズムに乗って演奏されている。 白眉はイントロ。 このイントロは彼女が作曲したものだそうだが、手垢のついたスタンダード中のスタンダードが可憐に蘇っているのは、一にも二にも、シンプルで愛くるしい素朴なイントロの旋律であることが大きい。 そして、オリジナルはラストの《ハーフ・ブラッド》だ。 この素朴な曲想と、デリケートなタッチは、今聴いている音楽は、ジャズという米国産の音楽だということをきれいサッパリ忘れさせてくれる。 幼少期の回想。山と海が見える町。夕暮れ時。放課後の帰り道。 なんだか、そのような青春の原風景が蘇ってくるような演奏だ。 勢いよく演奏される《スピーク・ロウ》のような演奏もあるし、ライブではパウエルナンバーなども積極的に演奏している彼女だが、むしろ、『フィニアスに恋して』のラスト2曲にこそ、彼女の素晴らしい持ち味の「ためらい感」が潜んでいる。 そして、ファンキーかつグルーヴィな曲《シュガー・レイ》もコッテリとした粘り気こそないものの、むしろ彼女の「ためらい感」がプラスに作用した、控え目な粘り気が非常に私の中の「あっさり好きなニッポン人心」を気持ちよく擽(くすぐ)る。 実際、彼女に私の番組にゲスト出演してもらった際、本編収録後にジャムセッションのお手合せをしていただいたことがある。 私のエレキベースの上に乗っかり、鍵盤を転がすようにスタジオのエレピを縦横無尽に操る彼女のフレーズは、コロコロと転がるようなファンキーなテイストを醸し出しつつも、決してトゥー・マッチなテイストには陥らない。 この心地よい寸止め感、上品なファンキーテイストが好きな人にはたまらないのだと思う。 今後も、このような日本人の心の琴線に触れる「ためらい感」ある演奏も織り交ぜてほしいと思うし、このニュアンスこそ、ほかのピアニストには出せない彼女ならではの個性。 フレージングはバップでも、ニュアンスをたたえた独特の語り口。 このニュアンスは、立派なオリジナリティなのだから、大事に育ててほしいと思っている。 |
| (2008/09/21) |
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