MOTION (Verve)
- Lee Konitz

  1. I Remember You
  2. All Of Me
  3. Foolin' My Self
  4. You Don't Know What Love Is (*)
  5. You'd Be So Nice To Come Home To
  6. Out Of Nowhere (*)
  7. I'll Remember You
  8. It's You Or No One (*)
  (*)…LP未収録曲

Lee Konitz (as)
Sonny Dallas (b)
Elvin Jones (ds)

1961/08/29

コニッツのアルトに、ベースとドラムだけのシンプルな編成。
いわゆるピアノレス・トリオだが、これを最初に聴いた頃の私には、演奏の輪郭すらはっきりと掴めずにいたものだ。

ただ薄ボンヤリと聴いているだけでは、ピアノやギターなど曲のトーンや雰囲気を示唆するガイド的な楽器無いので、“そこで起こっていること”が何が何だか分からないのだ。

《アイ・リメンバー・ユー》、《オール・オブ・ミー》、《帰ってくれればうれしいわ》などと、曲目だけを見れば、聞き慣れたスタンダードのタイトルがズラリと並んでいるが、演奏のほうはというと、テーマが省かれ、いきなりアドリブに突入しているものがほとんど。

今聴けば、どうして、こんなにエキサイティングな演奏にチンプンカンプンで、面白さを見出せなかったのか不思議な限りだが、ジャズの場合の多くは、初心者の頃に聴いた印象と、後から抱く印象との間に大きなギャップがあることのほうが多い。

もちろんワケが分からないながらも、私は聴き続けていた。
ワケが分からないなりにも、なにやらこちらを惹きつける魅力がどこかにあったからだ。

また、当時、私が所属していた大学のジャズ研には、ピアニストやギタリストがいなくなってしまったことも遠因としてあるのかもしれない。
コード楽器がいなくなってしまった環境下、必然的に組んでいたグループはこのアルバムと同じフォーマット、すなわちピアノレストリオになってしまう。
自分たちがやっている音楽のなんらかの参考になれば、という思いで、我々は、ロリンズの『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』や『ゴールデン・サークルのオーネット・コールマン』、そして『モーション』に範を求めた。
だから、私が最初に聴いていた『モーション』は、どちらかというと“楽しみ聴き”というよりは“学習聴き”といったニュアンスが強かったのかもしれない。

当時の私は、まだウッドではなくエレキベースを弾いていたが、ソニー・ダラスのベースラインを一生懸命耳で追いかけながら、ピアノレストリオの場合のベースは一体どういうラインを弾いているのだろうと“学習聴き”をしていたのだ。

しかし、ソニー・ダラスのベースラインは、私にとっては難解だった。
チェンバースやレイ・ブラウンのようにコードトーンと、調整感を確固と暗示するようなタイプのライン作りをしているわけではなく、むしろ、演奏者(ここではリー・コニッツ)のイマジネーションを刺激して、より高度なアドリブを組み立てるための足がかりとしてのヒントを提示しているようなラインだった。

一言で言ってしまうと、ちょっと抽象的だったのだ。
具体的に言うと、クロマチックが多用され、ラインの激しい跳躍が少なく、そのぶん滑らかで起伏の少ないスムースなライン。それゆえに、よく聴いていないと、彼はどこの箇所のどのコードのベースラインを弾いているのかが、分かりにくく感じてしまう。
もちろん、今の耳で聴けば、彼のやろうとしていることは理解出来る(ような気がする)が、当時の私にとっては、難解なベースに感じた。

また、彼はラインに“遊び”というか“オカズ”をあまり入れないので、非常にストイックで淡々としたベースに聴こえたのもまた事実。
悪く言えば、メリハリに欠けるラインと言えないこともないが、この堅実で、ひたすら“4つ”を弾くことだけに頑なにこだわり、遊びをまったく廃したベースを弾き続けたからこそ、コニッツもエルヴィンも彼を踏み台にして、あそこまで飛翔することが出来たのだろう、と私は思っている。

聴き続けているうちに、いつしか、『モーション』に親しみを感じはじめた私。
突破口はドラムだった。
エルヴィン・ジョーンズのエキサイティングなドラム。
複雑なポリリズムをパワフルに叩き出している、疲れを知らないエルヴィンの圧倒的なドラム。
ベースばかりを聴き続けていた私だが、ひとたび耳をドラムに移すと、少しずつこのアルバムが面白くなり始めてきた。

特に、「帰ってくれればうれしいわ」と「四月の思い出」のドラムは凄い。
これでもか、これでもかと複雑なオカズを叩きまくるエルヴィンのドラムは、本当に圧巻。
「帰ってくれればうれしいわ」の場合は、意識的になのかどうかは分からないが、コニッツがエルヴィンのドラムの“聞かせドコロ”を設けるためか、効果的にサックスを吹くのを止めて“間”を作ってくれているので、長尺の演奏にもかかわらず、飽きることが全く無い。

ジャズ研在籍中には、この「帰ってくれればうれしいわ」をお手本に、何度演奏したか分からないほどだ。
もちろん、コニッツらの足元にも及ばない稚拙な演奏だったことは言うまでもない。
ドラマーは、あんな凄いドラムを叩けるわけがないし、アルトだって、コニッツのように熱く燃えながらも、どこか醒めた眼差しで理知的にフレーズを組み立てられるセンスにも技量も欠けていた。
ベースはベースで、習いたての覚束ない指を必死に動かしながらの安定していないベースラインをブンブンと繰り出していた。

それでも、毎日毎日、コニッツバージョンをお手本とした「帰ってくれればうれしいわ」の練習を繰り返し、夜は夜で、枕元で寝ながら何度も『モーション』をリピートをしながらら眠りについていた生活は、今から振り返ってみると、とても単純な生活の繰り返しながらも楽しい思い出だ。

贅肉を削ぎ落とした、シャープで磨きのかかった無駄の無い演奏が続くこのアルバム、今でもよく聴くが、本当に飽きることが無い。

演奏の内容が分からないときには分からないときなりに、不思議な魅力でこちらを惹きつけてやまないし、演奏を楽しめるようになってきたらきたで、彼らのやろうとしたこと、そして結果的に生み出された途轍もない内容に驚きと、ため息を禁じえないのだ。

余談ながら、村井康司・著『ジャズ喫茶に花束を』という本に面白いことが書いてある。

ジャズ喫茶に花束を―ジャズ喫茶店主九人が語る「ジャズの真実」 [単行本] / 村井 康司 (著); 河出書房新社 (刊)

岩手県は一ノ関のジャズ喫茶「ベイシー」のマスターが選ぶ30枚に『モーション』が挙げられていた。そこのところを抜粋してみる。

エルヴィン本人に聴かせたら、「このドラム誰だ?」って訊くんです。「おまえさんだよ」って言ったら、「ジョー・モレロかと思った」って。
目が点になりました。
……だそうだ。
(2002/09/28) 


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