INNOCENT EYES (M&I Music) |
| - 川上さとみ |
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川上さとみ(p) 上村信(b) 田鹿雅裕(ds) 2008/06/08 & 09 |
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ベストトラックは、バド・パウエル作曲の《ダウン・ウィズ・イット》と《インスティンクト》だろう。 川上さとみのピアノは、バラード曲におけるスローテンポの演奏よりも、また《レジェンド》や《ムーンストーンズ》のミドルテンポの演奏よりも、アップテンポでの演奏のほうが断然良い。 そう感じるのは、きっとタッチの重さ、粘りによるものだろう。彼女のタッチは軽いとまではいわないが、決して重くはない。 ピアノの音の重さは、一般に鍵盤を押す瞬間のアタックの強さだと誤解されがちだ。たしかにその要素もあるが、それ以上に、指が鍵盤を離れ次の鍵盤にまで移行するまでの音の繋がり、粘りの要素のほうが重要だ。粘りの強い音価ほど、引きずるような重さを感じ、音離れの良いタッチほど軽やかに感じやすいのだ。 もちろん、解析不能な不気味な成分を含有したバド・パウエルのピアノの重さもあったりするので、鍵盤の音のつながりという、ただそれだけの要素でタッチの重さ軽さが決まるわけではない。しかし、粘るソニー・クラークのピアノと、粘らないチック・コリアのピアノを聴き比べてみれば、そのニュアンスの違いがはっきりと分かることだろうし、音の粘りがタッチの重さを決定づける大きな要素だということはご納得いただけることと思う。 川上さとみのピアノはどちらかというと、音の離れがよく、ベッタリとまとわりつく重さはない。 ただし、重みのあるピアノ表現を意識はしているのかもしれない。 特にミドルテンポのナンバーにそれが顕著で、バド・パウエルの《ブルー・パール》を彷彿とさせる冒頭ナンバーの《レジェンド》などは、ブロックコードを巧みに織り交ぜることにより演奏そのものに重量感を付加させているようにも感じる。 このナンバーに限らず、ミドルテンポ、ミディアムバウンスのナンバーはどれもが、テンポ的に和声やタッチに表情をつける余裕があるのだろう。様々なニュアンスを込めつつ重量感をかもし出そうとする彼女なりの工夫が随所に見受けられる。 しかし、アップテンポのナンバーとなると、そのようなタッチにニュアンスをつける時間的余裕がなくなるからなのか、本音むき出しのストレート表現になる。そして私はこのニュアンスをつける余裕のない切迫したテンポ設定の中における表現に彼女の本領を見る。 このアルバム『イノセント・アイズ』を何十回も聴き続けていると、ともすれば、ニュアンスの表出に心砕く演奏姿勢にトゥマッチな過剰感すら抱いてしまう瞬間があることは否めない。 しかし、アップテンポのナンバーには、そのような悪い意味での作為性が薄れ、たとえ後半のテーマにミスタッチが散見されようとも、それすら演奏の迫力獲得のためには必然的なものだったと好意的に受け取ってしまう自分がいる。 その名のとおり「本能」を意味する《インスティンクト》は、ベースとドラムとのリズムコンビネーションの一体感が楽しめる上に、川上さとみの「インスティンクト」むき出しの本音が垣間見られる演奏なのだ。このスピード感に拍車をかけるのが、先述した重過ぎないタッチ。軽快感が増し、より一層スリリングなニュアンスが増すのだ。 余談ながらこのアルバムは思い出のアルバムでもある。 以前、寺島靖国氏の番組「PCMジャズ喫茶」にゲスト出演した際、寺島氏が「どうです、いいでしょう?」と番組中でかけてくれたのが、このアルバムの《ダウン・ウィズ・イット》だったのだ。 個人的にはエコーが過剰気味のミキシングに多少音酔いをしてしまったが、バド・パウエルの『シーン・チェンジズ』に通ずる藍色に近い蒼さを感じ、好感を持った。 その少し後、『ジャズ批評』誌の企画で「女性ジャズピアノ」の企画が持ちあがり、ジャズ喫茶「いーぐる」のマスター後藤雅洋氏のコーナーの対談相手にご指名をいただいた際に、このアルバムを俎上に載せて後藤マスターからの批評を仰いだこともある。 取り上げた曲は、寺島氏絶賛の《ダウン・ウィズ・イット》。 後藤氏の評価は、寺島氏ほど絶賛というわけではなかったが、悪くはない、というニュアンスでプラス評価。 バド・パウエル、ならびにビ・バップの表現を身体の中に取り入れ、きちんと咀嚼したうえで吐き出しているから良い、ということだった。 ジャズ観が正反対ゆえ、なにかと対極的な見解を出しがちな、両ジャズ喫茶マスターから好評だった曲が収録されているアルバム。と、個人的には記憶している。 |
| (2011/07/28) |
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