『マイルス・デイヴィス自叙伝』を読むと、デューク・ジョーダンについては、あまり良いことが書かれていない。
チャーリー・パーカーのバックでピアノを弾くと、リズムは裏返るし、マックス・ローチに、「おい、リズム裏返るな!」などと怒鳴られるし、要するに、「使えないダメピアニスト」というようなニュアンスで評されている。
また、彼の代表作、『フライト・トゥ・デンマーク』を聴くと、録音が悪いせいもあるが、非常に「か細い」ピアノに聴こえる。
ジャケットを見ても、大雪の中に一人寂しくたたずむジョーダンの姿が、とても侘しく、なんだかとても寒い気分になってしまう。
私は学生時代に、ジャズ喫茶でアルバイトをしていたが、辛口のレコード係の人が、大のジョーダン嫌いで、「俺ってジョーダンって、ダメなんだよな、(店ではデューク・ジョーダンのレコードがかかっていて)ほらほら、ここの、高い音をてらてらてらと弾くような、ヘンなお星様キラキラで少女趣味っぽいところが、なーんか軟弱でさぁ」と吐き捨てるように呟いていたことを覚えている。
そのようなことが重なったせいもあり、デューク・ジョーダンというピアニスト、私の中では、「弱っちぃピアニスト(笑)」になっている。
しかし、この「弱っちぃ」という表現は、「愛着」の裏返しでもある。
時として、センチメンタルすぎる「弱い面」も、出てくることもあるが、そこを含めて愛しさを感じてしまうピアニストなのだ。
たしかに、彼のピアノを聴いていると、“押し”が弱い。
ナイーブな人なんだと思う。
しかし、そんな彼にも骨太でパワフルなアルバムもある。
ブルー・ノートから出ている『フライト・トゥ・ジョーダン』。
私はこのアルバムが大好きだ。
この渋くて力強いジャケット。
そして、アルバムの内容も、まさにジャケット通り。
ゴツンとした肌ざわりと、骨太なサウンド。
デューク・ジョーダンの「男」な面が強調された1枚だ。
でも、やっぱり時折り垣間見せる「弱っちさ」(笑)。
そんな彼のハードさとナイーブさの両方を兼ね備えた『フライト・トゥ・ジョーダン』が私は大好きだ。
さすが、ブルーノート!とでも言うべき、ハードバップの魅力とエッセンスを凝縮された内容となっている。
ブルーノートでは、これ1枚しか彼のリーダー作なのが残念。
さて、曲について。
タイトル曲の「フライト・トゥ・ジョーダン」がやっぱり一番良いと思う。
「ジェリコの戦い」という曲を彷彿されるメロディに、一回聴いたら二度と忘れることが不可能な「♪ぱや〜や、ぱや〜や」(笑)。
ドン臭いメロディだなぁ、と感じる人も多いと思う(私も感じた)。
しかし、この「♪ぱや〜や」こそが、この曲の最大の魅力と感じる日がやってくることだろう。
「♪ぱや〜や」のドン臭さこそが、最高にカッコ良い箇所でもあるのだ。
ジョーダンも張り切ってソロを弾いている。
そこには、「弱っちさ」のカケラもない。
2曲目の《スター・ブライト》は、とても落ち着く曲。
タイトルは「お星様キラキラ」だが、演奏内容は弱っちぃ少女趣味なお星様キラキラではない。
どっしりと落ち着いた味わいの、男の乾いたセンチメンタルここにあり!といった感じ。
4曲目の《ディーコン・ジョー》。
きっと、ジョーダン嫌いな人は、この曲の導入部のようなピアノが我慢ならないのだろう。ちょっとか細くセンチメンタルに高めの音を「ぴらぁ〜」と弾くジョーダン。
でも、私はこの曲のメロディ、なかなか面白いと思っている。
素朴な感じがして、湯上がりのまったりしたひとときに一人、ぼーっとなって缶ビールなんかを飲むとハマりそうな曲だ。
デューク・ジョーダンというピアニストを有名たらしめている理由の一つは、「危険な関係のブルース」の作曲者だということがある。
この哀愁たっぷりのメロディは、多くの人を虜にした。
クサさと怪しさ、そして哀愁のバランスがうまい具合に取れている曲だと思う。
有り難いことに、このアルバムにも、この曲が収録されている。
「Si-Joya」という、違うタイトルでクレジットされているが…。
ジャズ・メッセンジャーズのタフな演奏に比べると、ちょっとこちらの演奏は緩め。しかし、そこが良いのかもしれない。
イギリス出身のトランペッター、ディジー・リース、そして、節回しがいつだってアーシーでソウルフルなスタンリー・タレンタインのテナーもアルバム全篇を通して好演。
以下、どうでもよい余談だが、このアルバムをベランダで日光浴をしながら聴いていたジャズ・マニアがいたそうだ。
その人は、学生時代の友人の叔父さんで、彼は、ものすごい数のレコードを保有している「超」が付くほどのジャズ・マニア。
私も、彼の真似をして『フライト・トゥ・ジョーダン』を聴きながら日光浴をしようと思ったが、私にとってこのアルバムのイメージは、完全に夜なの
で、どうしても太陽の似合うアルバムとは思えず、結局、やめた。