Mr.HANDS (Columbia) |
| - Herbie Hancock |
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Herbie Hancock (el-p,syn) Bennie Maupin (ts) Wah Wah Watson (g) Byron Miler (el-b) #1 Ron Carter (b) #2 Freddie Washington (el-b) #3 Jaco Pastorius (el-b) #4 Paul Jackson (el-b) #5 Leon "Ndugu" Chacler (ds) #1 Tonny Williams (ds) #2 Alphonse Mouzon (ds) #3 Hervey Mason (ds) #4,5 Bill Summers (per) Sheila Escovedo (per) 1973/12/10 |
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ベーシスト向けのアルバムだと思う。 少なくとも、ベースを弾いている私にとってはそうだ。 曲がどうのこうのといったことや、ハンコックのキーボードがどうだといった聴き方はしていない、いや、出来ないのだ。 ジャコ・パストリアスにポール・ジャクソン。それにロン・カーターまでもが参加しているのだから、まさにベテラン・ベーシスト百花繚乱的なアルバム。それぞれスタイルの違うベーシストのプレイの見本市のような、非常に贅沢なアルバムなのだ。 ポップスにおいては、ドナルド・フェイゲンの『ナイト・フライ』が私にとってのベーシストの見本市のようなアルバムだった。 アンソニー・ジャクソン、チャック・レイニー、ウィル・リーといったスゴ腕ベーシストたちのプレイが惜しげもなくつぎ込まれたアルバムな上に曲も素晴らしく、その上ジャケットも渋いので愛聴しているアルバムの一枚だ。 これが“歌のあるベーシストアルバム”だとすると、この『ミスター・ハンズ』は、“歌のないベーシストアルバム”で、より一層ベースの音に耳が吸い寄せられてしまうのだ。 《スプリング・プリズム》における、バイロン・ミラー。 たった一つのリフの中にも、たっぷりと一音をレガートさせた音と、反対にスタッカートで音価が短めの音、それに弦をスライドさせた音といったように、様々な音価を使い分けて表情豊かなニュアンスを出している。 ベースにおいては基礎的なテクニックばかりだが、執拗に何度も反復されるこのパターン、ニュアンスを崩さずに正確に繰り返すテクニックには脱帽もの。 《カリプソ》におけるロン・カーター。 軽めで、音のエッジがトレブリー気味な彼特有のアクの強いウッドベースのサウンドも、得意の“クイッ!”という空ピックが、ここでは良い効果を出してている。 左手で弦をしっかりと押さえずに、音程のないアタック音を一瞬出す奏法を空ピックというが、この空ピックによって生み出される“ゴースト・ノート(音程のない打楽器的音色)”をさり気なく混ぜるのが、ロンの必殺技の一つだが、ここでは曲想にピッタリとマッチしているのだ。 つんのめり気味のリズムを一層強調させ、気持ちの良いノリを生み出しているのだ。 《ジャスト・アラウンド・ザ・コーナー》におけるフレディ・ワシントン。 ザクッ! とした重たいスラップの雨が心地よい。 スラップとは、日本では“ちょっぱー”と呼ばれる指板に弦を叩きつけるアタックの強い奏法だ。 インパクトのある音色ゆえ、演奏者のセンスや品性次第では、とても下品になったり、軽薄なサウンドに陥る危険性の高い奏法ともいえるが、ここでのフレディのプレイは重量感と野性味に溢れている。 そして、正確に、タイトにグルーヴするプレイは特筆に価する。 《4 AM》におけるジャコ・パストリアス。 エッジの効いた、彼ならではの音色。粒が細かく、短めな音価の16ビートなフィーリングの粒立ちの鋭いバッキングと、フレットレスならではの伸びやかで柔らかい音色によるメロディアスなプレイの使い分けが絶妙だ。 こういうカッコいいベースを弾きたくて、世界中の何万人ものベーシストがきっと今でも苦労しているのだ…。 彼のリーダーアルバム『ジャコ・パストリアスの肖像』の延長にあたる演奏ともいえる。ジャコ好きなベーシストは、この一曲だけでも『ミスター・ハンズ』をチェックするべきだろう。 《シフトレス・シャッフル》におけるポール・ジャクソン。 太い指で奏でられる“ブリッ!”とした音圧の高いブーミーな音。 しかし、彼の太い指の正確なフィンガーコントロールが生み出す、粒立ちが正確で、音価の短めな細かい一音一音は、畳み掛けるようなハーヴィ・メイソンのドラミングと素晴らしいリズムコンビネーションを築き上げ、この突んのめったリズム感覚は、まるで身体が裏返ってしまいそうな、複雑なくせに太いグルーヴを生み出している。 このアルバムのベストトラックだと私は思っている。 そして、忘れてはいけない隠れた名ベーシストがいる。 そう、《テクチャーズ》における、ハービー・ハンコック。 彼が鍵盤で奏でるシンセベースだって、他のベーシストに負けてはいない。 『ヘッドハンターズ』の、一度聴いたら絶対に忘れられない強烈なリフもハンコックのシンセによるものだだが、彼のシンセベースもたった数音のリフの中にも微妙な抑揚がつけられている上に、ノリが非常に黒っぽい。 様々なベーシストが、様々なプレイを繰り広げているこのアルバム。ベーシストによって微妙にノリが違うことに気がつけば、聴くのがますます面白くなる。 ノリが違いは、ベーシストそれぞれが抱いているタイム感の違い。 タイム感の違いは、音価の違いによって現れる。 同じ、ファンク、ソウルと呼ばれているジャンルのベースでも、ベーシストによってはまったく音価が違う。 たとえば、モータウンのジェームス・ジェマーソンのように、たっぷりと時間ギリギリまで音を引っ張る音価の人もいれば、タワー・オブ・パワーのロッコ・プレスティアや、グルーヴの神様と呼ばれているチャック・レイニーのように、スタッカート気味で短めな音価の人もいる。 そして、音価の違いはそのまま音色の問題に行き着く。 柔らかい音色、硬めの音色、重い音色、軽い音色。 ベース本体や、セッティングの違いだけでも音色が相当に変わる。 自身の音価を最大限に生かすためには、行き着くところは音色という楽器の原点から出発して考えなければならない。 そのようなことまでをもベーシストとしては考えざるを得ない、非常に示唆に富んだアルバムなのだ。 やっぱりベーシスト必聴。『ベースマガジン』誌の特集で取り上げても良いぐらいのアルバムだと思う。 |
| (2002/07/04) |
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