THE IN BETWEEN (Blue Note)
- Booker Ervin

  1. The In Between
  2. The Muse
  3. Mour
  4. Sweet Pea
  5. Largo
  6. Tyra

Booker Ervin (ts)
Richard Williams (tp)
Bobby Few Jr. (p)
Cevera Jeffries Jr. (b)
Lenny McBrowne (ds)

1968/01/12

数年前のある日のこと。
季節は秋の入口。
前日がライブだった翌日の朝のことだ。

ライブをやった次の日は、前日がエキサイティングであればあるほど、翌朝はなぜか気だるい気分が増す。

外は雨が降っている。
週末の気温は30度だったそうだ。残暑。
そして、昨日の平均気温19度と、わずか1日で11度の気温差。
一気に肌寒くなってきた。

もっとも、酔い覚ましには心地よい肌寒さではある。

朝から降る雨で、今日の気温はもう少し下がっているのかもしれない。その気温差で体調を崩したのだろうか、少し風邪気味ではある。

私は黒糖のカリントウを食べながら、濃い目のニガいコーヒーを淹れて飲んだ。

表に出、あいもかわらず憂鬱で乳白色の曇り空を見ながら、煙草をプカプカとふかしながら飲む濃いコーヒーの味から、今は無き渋谷の『スイング』のコーヒーの味を思い出した。

ほぼ毎日『スイング』に足しげく通っていた時期があったが、そのときの渋谷・宇田川町の空はいつも憂鬱な乳白色だった。もちろん快晴の日もなくはなかったが、私の記憶は、完全に曇り空に塗り換わっている。

くわえ煙草がよく似合う、粋でダンディな宮川さん(マスター)は既に亡き人で、あの饐えた匂いのする店内や、ひび割れたコンクリートの階段坂にたむろしていた猫たちは、今どこにいったんだろう、と思いながらも部屋に戻ると、iTunesは、ブッカー・アーヴィンの『ジ・イン・ビトゥイーン』をシャッフル選択していた。

ラストナンバーの《タイラ》がかかる。

ああ、なんて今日の天気と私の気分にマッチしているのだろう。
なんなんだ、この重さと哀愁は。

リチャード・ウイリアムスの鋭くも哀感のこもったトランペットもただごとではない。

今日のオレのこの気分のために、40年近く前にブッカー・アーヴィン以下4人はこの曲を録音したのだ、と思うことにした(笑)。

我ながらバカな思い込みだが、時にはこういう思い込みも楽しいものです。

そして、ジャズと恋に限っては、このようなバカな思い込みとカンチガイが日々の生活のちょっとしたスパイスになるのです(笑)。

アーヴィンのアルバムは、アーヴィンにしか出せない独特の重量感を味わいがある。
しかし、特には濃ゆ〜い重量感よりも、まったりとした切なさが勝る時もあるな、と感じた次第。

音楽は受け手の感受性のチャンネルによっていかようにも変容するものなのだ。
ジャズも、また然り。
(2009/03/15) 

ブッカー・アーヴィンは、中毒性の高いテナーサックス奏者だ。

質実剛健、豪腕一直線。小賢しい小技を効かせることを潔しとしない。しかも、音そのものが真っ黒けっけ。

彼のファンは、おそらくタフで黒く煤けたテナーがそこに鳴っているだけで脳の中でヨダレを垂らすのだ。少なくとも私はそうだし、同じようなことを言っているテナー奏者に奄美大島「サウンズパル」の高良俊礼さんがいる。

ちょっと裏返ったようなテナーの音色。
ロングトーンのときに少しだけ捩れる音程。
棒を切ったように武骨なフレージング。

重量感溢れ、ちょっと尖ったアプローチの演奏が多いにもかかわらず、どこか漂う微妙なイナたさ。そしてなぜか漂うニンニクの香り(笑)。

これらの微妙な要素が総合的に交じり合っているのが、アーヴィンの世界。
漢(おとこ)アーヴィンの世界だ。

コルトレーンほど鋭利ではなく、ゴードンほど鈍器でもない。
両者の良いところがブレンドされ、ほろ苦い甘さも加わる。くわえてカッコ良すぎないところが、絶妙にカッコ良い。

例えるならば、レバニラ炒め。あるいは餃子か?
人によっては牛丼かもしれないし、高菜や紅ショウガをたっぷりと盛ったトンコツラーメンかもしれない。

決して高級料理ではないが、時折、猛烈に食べたくなる食べ物。そして、廉価でちょっと匂う食べ物。

これらをガッツリ食べた後の満足感はなににも替えがたい。
値段も安く、そこから満たされる満足感、幸福感のコストパフォーマンスの高さは絶大なり。

アーヴィンの音楽は、まさにそう。

ああ、アーヴィンに思いを巡らしながら書いているうちに、本当にニラのたっぷりはいった餃子を食べたくなってしまったではないか。

餃子サックス。あるいは、餃子テナー。
喩え悪いが、アーヴィンのニュアンスからは大きく外れてはいまい。

そういえば、昔、「甘太郎」という居酒屋に「餃子丼」なるメニューがあったが、これをかっこむ時の悦びはアーヴィンを聴いているときの悦びに近い。

それにしても最近の「甘太郎」のメニューからは「餃子丼」が消えて久しい。
重たい電子ボードで入力してオーダーを取るシステムにしないでも良いので、是非、「餃子丼」を復活させてください。

さて、そんなアーヴィンの力作、かつブルーノートにおいての初リーダー作とともに遺作ともなってしまったアルバムが『ジ・イン・ビトウィーン』だ。

これ、名盤。傑作!

急速調のタイトル曲。
白熱するレニー・マクブラウンのドラミングに乗って、いつもより2割増しで闊達なアーヴィンは、水を得た魚のごとく力強いブローを繰り広げる。

まったりミドルテンポの《タイラ》や、スローテンポの《ラルゴ》もオススメ。男アーヴィンの独り言を聴け。

トランペッター、リチャード・ウィリアムスが大活躍の《ザ・ミューズ》もカッコいい。風雲急を告げるトランペットに重なるようにぬ〜っと出現するアーヴィンのソロのカッコいいこと、カッコいいこと。

味のあるテナー、無骨でタフなテナーはアーヴィン以外にもたくさんいる。
しかし、アーヴィンの味わいは他の同タイプのテナーには無いものがある。是非、一人でも多くの中毒者が増えんことを。
(2008/02/16) 


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