PARIS BLUES (Owl) |
| - Gil Evans / Steve Lacy |
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Gil Evans (p,elp) Steve Lacy (ss) 1987/11/30 & 12/1 |
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私は仕事柄、深夜にタクシーで家に帰ることが多い。 朝まで飲んで、始発電車に乗るのが面倒臭いから、タクシーの中で寝ながら帰宅するというパターンもあるが、ほとんどが、仕事が長引き、終電を逃したために仕方が無く、というケースがほとんどだ。 家に帰ると、子供が私の帰りを待っていることもあるが、たいていは家の中は寝静まっているか、女房が自室で勉強や仕事をしている。 女房は、朝の3時か4時に起きて仕事や勉強をする生活パターンの人間なので、たとえ遅く帰って、女房の部屋の灯りが点っているときでも「ただいま」「おかえり」程度の挨拶しか交わさない。 あとは彼女の勉強の邪魔にならないよう、私は勝手に夜食を作ったり、風呂に入ったり本を読んだり、ネットをしたりして夜の時間を過ごしている。 当然、朝の始業時間から深夜まで仕事をしていると、身も心もフラフラになってしまうことだって、ときにはある。 そういうときはどうするかというと、すぐには寝ない。 身体の中の妙なところが覚醒していたり興奮していたりもするし、逆に妙なところが疲れていたりと、なんとなく肉体と精神のバランスが悪く、このままの状態で寝床に入ると、むしろ翌朝の目覚めが悪くなることを経験的に知っているからだ。 だから、まず風呂に入る。 そして、熱いコーヒーを飲む。インスタントだ。時には迎え酒で、強めの酒を飲むこともあるが。 そして、煙草を吸ったり、外の景色をボンヤリと見たりする。 とにかく、疲れは睡眠で補うこととして、寝床に入る前に、効率の良い睡眠を取るための準備段階として、心身ともにフラットな状態になるような行動を無意識にとっているのだと思う。 このような状態で、私は音楽をかける。 「癒し」という言葉には関心無いし、べつだん音楽から癒されようとも思っていないので、このときに無意識に私が選んでいるCDの基準は、思索的なものが中心になっているような気がする。 日常とは別の世界に没入することによって、一時的に疲れを忘れた状態になりたいのかもしれない。 「疲れたね、よしよし」と心の表面を撫で撫でしてくれるタイプの音楽は、疲れているときほど、むしろ鬱陶しい。 自らが、何かを考えたり、違う世界の出来事に没頭したり出来るタイプの音楽こそが望ましい。 そういうときに一番よくかけるアルバムは、モンクの『セロニアス・ヒムセルフ』。あるいは、サックスの旋律をひたすら耳で追いかけたくなることもあるので、そういうときは、エリック・ドルフィーの『アウト・ゼア』のどこまでも続く不思議なアルトの旋律を追いかけたり、リー・コニッツの『モーション』やオーネット・コールマンの『ゴールデン・サークルVol.1』のアルトの旋律だけを聴いたりしている。 また、静けさの中にも、異様な緊張感の張り詰めたギル・エヴァンスとスティーヴ・レイシーの『パリ・ブルース』も振り返ってみれば、意外とよく手が伸びるアルバムだ。 これは、スティーブ・レイシーのソプラノサックスと、ギル・エヴァンスの寡黙なピアノ(エレピ)とのデュオアルバムだ。 私はこの二人は、「音を“置くように”奏でる」タイプのミュージシャンだと思っている。 ギルは、プレイヤーというよりも、名アレンジャーということもあり、空間への音の置き方と配列に関しては、人並み以上に鋭敏な感覚を持っていることは想像に難くない。また、彼のポツリポツリとした朴訥なピアノも、その音の発するタイミングと間がより一層、音を置いているように聴こえる。 また、スティーヴ・レイシーも、一音一音を慎重を発するタイプのプレイヤーで、リズムや勢いにのってスルスルと手抜きやフェイクをするようなことは絶対に許さないような頑固なこだわりを感じるサックス奏者だと思う。 フレーズには浮遊感も感じられるが、発する一音一音は、しっかりと地に足がついている。 私はミンガスの作った曲が大好きで、特に《リーンカネーション・オブ・ラブ・バード》や《グッドバイ・ポーク・ハット》、そして《オレンジ色のドレス》などといった陰影と濃淡の見事なナンバーがとてもお気に入りなのだが、このアルバムには上記3曲すべてが演奏されている! ミンガス特有のアンサンブルの分厚さは廃され、どちらかというと、空間と間を生かした演奏に料理されている。 音のぶつかり合いで陰影を描くミンガスの曲を、逆に音を抜き、空間を際立たせることによって、逆にミンガスらしさを損なうどころか強調している彼らのアプローチは見事というほかない。 両名とも、妥協を許さぬ職人肌タイプのミュージシャンなので、彼らのアンサンブルからは予定調和な馴れ合いは一切感じられず、息が詰まるほどの緊密な音空間で埋め尽くされている。 かなり辛口で、シリアスなアルバムだ。 しかし、瑣末な日常を忘れ、彼ら独自の音世界に引き込むだけの力のあるサウンドには違いないので、私にとっては、これぐらいテンションのある演奏に没入して疲れを忘れ、昂まった神経をクールダウンさせるほうが、癒し音楽を聴くよりもずっと高い効果があるし、寝つきも良い。 『パリ・ブルース』。ギル・エヴァンス最後のスタジオ録音となった作品だ。 |
| (2002/10/04) |
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