IVORY HUNTERS (United Artists) |
| - Bill Evans & Bob Brookmeyer |
|
|
Bill Evans (p) Bob Brookmyer (p) Percy Heath (b) Connie Kay (ds) 1959/03/12 |
|
|
|
これまた面白い企画、というか編成だ。 ピアノトリオにプラス、もう1台のピアノ。 ピアニストの1人は、ビル・エヴァンス。 かたや、もう1人のピアニストは、トロンボーン奏者のボブ・ブルックマイヤー。 トロンボーンというと、細長い管を前に出したり、引っ込めたりといった楽器“あの”楽器だが、ボブ・ブルックマイヤーの使うトロンボーンは違う。 バルブトロンボーンといって、前後にスライドさせる管で音程を調整するのではなく、トランペットについているボタン、すなわちピストンを用いて音程を作り出す構造のトロンボーンなのだ。 この楽器の操作性を活かしながらも、ほんわりと暖かげな音色の中にも、ときおり、エッジのたった主張の強いフレーズを織り込む油断のならないトロンボニストが、ブルックマイヤーなのだ。 しかし、このアルバムではブルックマイヤーは、トロンボーンではなく、ピアノのみに専念している。 そう、彼はトロンボーンだけではなく、ピアノの名手でもあったのだ。 というよりも、彼の音楽キャリアは、もとはといえばピアニストだった。 デビュー時に在籍したテックス・ベネキー楽団、次いでクロード・ソーンヒル楽団での彼のポジションはトロンボーンではなくピアニスト。 デビュー前はカンサスシティの音楽院でピアノを勉強してもいる。 もちろん、デビュー前はトロンボーンも嗜んでいたブルックマイヤーだが、プロとしてトロンボーンを吹くようになったのは、ジェリー・マリガンやスタン・ゲッツのグループあたりからだ。 そんなブルックマイヤーだから、ダテや酔狂でこのアルバムで全編ピアノを弾いているわけではないのだ。 もっとも、最初はブルック・マイヤーがトロンボーンを吹き、エヴァンス以下のピアノトリオがリズムセクションを担う「トロンボーン・カルテット」の企画として彼らはスタジオ入りしたらしい。 ところが、たまたまスタジオには2台のピアノがあったこともあり、何曲からピアノ2台の演奏があってもいいのでは? という話がまたたく間に進み、2人がピアノでデュエットでリハーサルを重ねるうちにすっかり意気投合。結局はトロンボーン抜きのピアノのデュオ+ベース+ドラムスという変則的な編成の演奏にレコーディングは終始した。 これがこのアルバムが生まれた背景。 エヴァンスがまだスコット・ラファロを擁したトリオを結成する半年前の出来事だ。 驚くべきことに、ぼーっと聴いていると、いや、ぼーっと聴いていなくても、どちらのプレイがエヴァンスなのかブルックマイヤーなのか分からなくなってしまう瞬間がたびたび出てくる。 もっとも、2台のピアノは、左右のチャンネルにわかれているので(右がエヴァンス、左がブルックマイヤー)、意識を持続させれば、どちらがどのプレイなのかを見失うことはないのだが、両者の音を聞き分けれれば分けられるほど、おそろしく2人の個性がに通っていることが分かる。 厳密に言えば、やはりエヴァンスのピアノのほうが1日の長があることは確かで、フレーズの譜割りとスピード感の緩急に関してはブルックマイヤーよりもはるかに柔軟ではある。 しかし音の佇まい、色彩感覚は驚くほど似ているので、知らない人に「これはエヴァンスがピアノを多重録音した作品なんだよ」と嘘ついて聴かせてもバレないかもしれない(笑)。 ブルック・マイヤーを刺激するようなバッキングをほどこすエヴァンスも出てくるかと思えば、エヴァンス得意のリズムにタメを効かせた和音にブルックマイヤーは一糸乱れずに付き添っている瞬間もあり、意図的なのか偶発的なのかはわからないが、演奏の中には絶えず身を乗り出す瞬間がいくつもあるので、まったく聴き飽きることがない。 ひとつだけ「身を乗り出すポイント」を挙げると、《ハニーサックル・ローズ》のベースソロの直前と、ベースソロの途中に何度か現れる和音のキメの部分。 事前に打ち合わせておいた内容なのだろうが、2人のタイミングはピッタリだ。 この突発的なタイミングで刺激的な和音を響かせる手法は、エヴァンス特有のものなので、おそらくエヴァンスによるディレクションによるアレンジなのだろうが、ブルックマイヤーは、あたかも2人目のエヴァンスかのようにピッタリとエヴァンスに寄り添う。 まるで映画『フィビュラス・ベイカー・ボーイズ(恋のゆくえ)』に登場する2人のピアニスト兄弟のように、長年コンビを組んだピアニスト同士が息の合ったプレイをしているかのように聴こえる。 これほど相性の良い2人ではあるが、実質上、このレコーディングが行なわれた1959年3月12日が両者のピアノ同士の音合わせははじめて。 にわかに信じられないほどのコンビネーションの良さだ。 己の技量の見せ合いには陥らず、互いの良いところを引き出しサポートしてゆこうという精神に貫かれた演奏だからこそ、両者のピアノは衝突することなく溶け合い、時に双子のピアノのように響くのだろう。 満腹度80パーセント。 ゆえに、聴き終わるたびに今一度聴き返したくなるアルバムだ。 |
| (2009/01/14) |
|
|
|
|
All Rights Reserved. |