SOMEDAY MY PRINCE WILL COME (Columbia)
- Miles Davis

  1. Someday My Prince Will Come
  2. Old Folks
  3. Pfrancing (No Blues)
  4. Drad-Dog
  5. Teo
  6. I Thaught About You

Miles Davis (tp)
John Coltrane (ts)
Hank Mobley (ts)
Wynton Kelly (p)
Paul Chambers (b)
Jimmy Cobb (ds)
Philly Joe Jones (ds)

1961/03/07,20&21 (New York)

入門者にオススメのジャズのアルバムといえば、

ソニー・ロリンズの『サキソフォン・コロッサス』、
ビル・エヴァンスの『ワルツ・フォー・デビー』、
ソニー・クラークの『クール・ストラッティン』
…などが挙げられる。

どれもが、初心者にはとっつきやすく、なおかつ、マニアも思わず唸ってしまうほど、演奏のクオリティの高さを誇る懐の深いアルバムだ。

しかし、最近の私は、マイルスの『いつか王子様が』も、初心者にお薦めするアルバムの1枚に挙げてもいいんじゃないかと思っている。

なぜかというと、入門したての人って、現実的な問題として、どうしても金銭的な問題と、メンタル的な満足度のコストパフォーマンスを考えると思うんですよ。
つまり、ジャズという趣味にドップリと漬かるのかどうかの判断のついていない状態の人は、いきなり何枚ものジャズのアルバムに散財するには気が引けるだろうし、出来れば、1枚の中にジャズの様々なエッセンスが凝縮されていたほうが良いと考えるのが普通だと思う。

曲の数も少ないよりは多いほうがおトクな感じがするだろうし、まったく知らない曲ばかりよりは、1曲ぐらい聴いたことのあるメロディがあったほうが嬉しい。
演奏している人だって、まったく知らない名前のジャズマンばかりよりは、どこかで聞きかじった名前の人がいたほうが安心する。

そして、少ない枚数ながらも、そういうアルバムを繰り返し何回も味わいながらジャズへの理解を深めたい。
きっとそう思っている入門者は多いはず。

だから、「マイルス・デイヴィスの『いつか王子様が』こそが最適なアルバムでっせ!」と声を大にして言いたい。

題材が、誰もが知っているディズニーの有名曲だ。
入門者がジャズという音楽に抱「大人っぽいムード」が満載だ。
名前は聞いたことがあるような気がするジョン・コルトレーンという人も参加しているし、もちろん、マイルス・デイヴィスって人も、名前ぐらいは知っているでしょう?
ジャズが持つ粋さとカッコ良さが惜しみなく注がれた演奏が楽しめる。
ピリッとしまったクールな雰囲気がジャズのカッコ良さを教えてくれる。
スパニッシュな雰囲気がたまらないハードボイルドな演奏もあり、理知的でスマートなブルースもあり、他のジャズマンもよく取り上げるスタンダードナンバーもある。

1粒で、いや、1枚で、5度おいしいどころか、7度も8度も、それこそ聴けば聴くほどオイシイ発見に満ちたアルバムなのだ。

冒頭に挙げた入門者のアルバムには敢えてあげなかったが、ジョン・コルトレーンの『バラード』というアルバムも、入門者が持っている確率の高いアルバムの1枚だ。
もしコルトレーンの『バラード』を聴いて、「あら素敵。コルトレーンのアルバムをもう1枚買っちゃおうかしら」と、2枚目のコルトレーンのアルバムの購入を検討している人がいれば、私は迷わずコルトレーンが参加している、マイルスのこのアルバムを勧めたい。

同じコルトレーンという人物でも、こうも雰囲気の違うプレイをするものかと、彼の持つ多面性を発見する楽しみもあるが、それ以上に、同じジャズでも、こんなにも雰囲気が違うものか、とジャズの音楽の多様性と広がりも感じることが出来るからだ。

甘くてムーディな『バラード』に対して、ピリリと締まりのある『いつか王子様』のサウンドトーン。
この両極端な音楽の肌触りが、コルトレーン参加のたったの2枚で味わえしまうのだから、お得といえばお得だ。

『バラード』では大男の猫なで声のようなサックスを吹くコルトレーンだが、こちらのアルバムでのコルトレーンは哀愁を孤独を背負って立つ、逞しいヒーローだ。
スパニッシュ・フレバーの効いた《テオ》を聴くとよい。
『バラード』では味わえなかった雄々しいコルトレーンの雄姿を感じることが出来るは ずだ。

順序が逆になってしまったけれども、誰もがご存知のディズニーのタイトル曲。
思わず頬が緩んでしまうような旋律を、マイルスはミュートをかけたトランペットで、情感をこめながらも、やや辛口な味わいで吹く。
イントロではポール・チェンバースのベースの刻みに乗って、ヒラヒラとウイントン・ケリーのピアノが跳躍する。この出だしの演出だけでも特筆もの。
さらに、優しげでウォームなハンク・モブレーのテナーサックスのソロも聴きごたえ充分だし、後半に登場するコルトレーンのソロは、まるで、バリバリにチューン・アップした車を公道の上で高速で運転をしているようだ。どういうことかというと、曲の雰囲気と、その曲の演奏に臨む馬力の著しいギャップが面白いということ。

3曲目の《ノー・ブルース》も良い。
タイトルとおり、ブルース進行の普通のブルースだが、テーマの終わりにマイルスがおよそ10秒ほど、最後の音をロングトーンで伸ばすところが最高にカッコいい。
スマートな遊び心と、ツボを抑えた粋さ。マイルスのマイルスならではの心憎い演出だ。
悪いけど、武骨なコルトレーンには、そういった粋さってないんだよね。べつにコルトレーンを責めているわけでも、揶揄しているわけでもないよ。
戦隊モノで言えば、クールな青レンジャータイプのマイルスと、どう考えても、熱血漢な赤レンジャーの気質と、食いしん坊で怪力でマッスグでカレーが大好きな(カレーは余計か)キレンジャーのキャラが混ざったキャラクター、コルトレーンが共演するからこそ面白い効果が生まれることもあるし、演奏に奥行きが出てくるというわけ。
その最たるものが、先述した、スパニッシュタッチの《テオ》だと思う。

後年、コルトレーンは『オレ!』などで、スパニッシュフレバーの演奏にもトライしていて、もちろん、それはそれで素晴らしい演奏には違いないが、この《テオ》で見せた、世界の中心で世界中の孤独を一身に背負っ立つほどの奥深きストイックさはない。
これは、きっとマイルスが設定したムードのお陰なのではと思う。

マイルスって人が、結局長い間、ジャズ、いや、ジャズに限らず音楽の世界で生き残り、いや、生き残るどころか“帝王”として君臨できたのは、きっと、共演者の資質を見抜いて、共演者の実力以上の実力を引き出してしまうのがうまかったからなのだろう。

世界の孤独と書きながら思い出したが、ラストの《アイ・ソウト・アバウト・ユー》も絶望的に孤独な世界だ。
スイートなくせに辛口なトランペットの囁きで、あなたを絶望の奈落に突き落としてくれることだろう。
しかし、ただ、絶望の奈落に突き落とすだけではなく、最後には「でも、希望はあるよ(あるかもしれないよ)」と、前向きな言葉を語りかけているところもミソ。
巧いというか、ズルいというか。
いずれにせよ、節約された音数で、ここまでの奥深い表現をしてしまうマイルスこそが、『バラード』がベストセラーのコルトレーンよりも、バラード表現においては数枚上手だといえる。

なんだか、バラバラな曲紹介になっちゃってるけれども、2曲目の《オールド・フォークス》も素晴らしい。
ラストの《アイ・ソウト・アバウト・ユー》同様にバラードで、しかもミュート・トランペットでプレイされてはいるが、音の感触がまるで違うので聴き比べてみて欲しい。

こちらのバラードにおけるミュートトランペットは、優しげで暖かな眼差しに満ちている。
同じ音色、同じテンポで、ここまで表現に違いを持たせることが出来るマイルスという人は、やはり底知れぬ人だと思う。
しかも、この表現の奥深さは、入門者をもハッとさせる分かりやすさ。
だからこそ、奥深く、かつキャッチーでもある『いつか王子様が』は、ジャズ入門者にオススメしたいアルバムなのだ。
(2004/11/14) 

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