'ROUND ABOUT MIDNIGHT (Columbia)
- Miles Davis

  1. 'Round Midnight
  2. Ah-Leu-Cha
  3. All Of You
  4. Bye Bye Blackbird
  5. Tadd's Delight
  6. Dear Old Stockholm

Miles Davis (tp)
John Coltrane (ts)
Red Garland (p)
Paul Chambers (b)
Philly Joe Jones (ds)

1955/10/26 #2
1956/06/05 #4,5,6
1956/09/10 #1,3

マイルスのアルバムを何か1枚。いや、ジャズってぇもんを何か1枚勧めてよ、と言われたら、これを推したい。

ハードボイルドな雰囲気、リラックスした演奏、リズムの勢い、哀愁、マイルス流の美学と粋、演奏の熱さ、演奏に臨むクールな視線、そして根本的なカッコ良さ…。

このアルバムには、ジャズならではのおいしいエッセンスがことごとく凝縮されている。

夜のしじまに響き渡るかのような、鋭く突き刺すようなマイルスのミュートと、まるで映画のクライマックスを彩るかのようなコルトレーンの咆哮。
この鮮やかな対比が見事な《ラウンド・ミッドナイト》がやはりこのアルバムと特徴づける決定的な名演奏。のみならず、セロニアス・モンク作曲の名曲かつ難曲《ラウンド・ミッドナイト》の決定版がこの演奏だといえよう。

この格調高い1曲があるがゆえに、このアルバムの名声は不動のものとなっている。
この演奏の素晴らしさはもちろん折り紙付きだが、しかし、この1曲だけが素晴らしいというわけでもない。当時のマイルスが擁したジャズにおける最強のリズムセクションの面目躍如ともいえるオイシイ演奏が満載なのだ。

パーカーナンバーを小気味良いアレンジと躍動するリズムで瑞々しく彩った《アー・リュー・チャ》。

柔らかで優しい表情を見せるマイルスのトランペットが印象的な《オール・オブ・ユー》。

イントロのレッド・ガーランドのピアノだけで泣けるのに、さらにもっと泣けよ、泣けよと優しく誘うイジワルなマイルスのミュートがニクい《バイ・バイ・ブラックバード》。マイルスのシンプルな中に情感をたたえたミュートトランペットも泣けるが、後につづくコルトレーンの一生懸命なソロも良い。まるで、自分なりの《バイ・バイ・ブラックバード》のストーリーを短い時間の中語りつくそうという熱意が感じられ、こちらは「そうか、そうか、コルトレーン君。あわてなくていいから、ゆっくり話しなさい」と、子供を優しく見守る大人の気分になって聴ける(笑)。

《バイ・バイ・ブラックバード》でホロりとした気分の後の《タッズ・ディライト》のイントロ。流れとしては申し分ない。
力強さとともに、ダメロン作曲のそこはかとなく独特な気分をたたえた曲を見事に昇華しきって突き進むマイルス・カルテットの頼もしいこと。

スウェーデンの民謡をここまで高貴に、力強く昇華させてしまった《ディア・オールド・ストックホルム》は白眉。
ピリッと曲の要所要所を締めたマイルスのミュートは見事というほか無い。

それに続く、コルトレーンのソロも《バイ・バイ・ブラックバード》と同様、「ボクね、こないだストックホルムいってね、すごかったんだよぉ、寒くてさぁ、それでね、それでね…」と一生懸命「僕のストックホルム」を語りだすコルトレーン。テンポも速く、喋れる時間も限られている。急げ!もっと、もっとストックホルムを語らなければ! そうした切迫感、たどたどしさも感じさせながらも、出来るだけ多くの情報量を時間の中に封じ込めようとするコルトレーンの姿がいじらしい。

昔はコルトレーン嫌いだった私が、じわじわとコルトレーンを好きになってきたのは、“超人コルトレーン”ではなく、こういう一途さが垣間見れる演奏も多いことに気付いたからだと思う。

と、すべての曲の簡単な感想を書いてしまったわけだが、いずれにせよ『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』は、各々のメンバーの特質を余すことなく引き出したマイルスのリーダーとしての力量、トランペッターとしての実力を見せつける名盤だ。

極端なことを言えば、《ラウンド・ミッドナイト》がなくても、このアルバムは1枚の優れたアルバムとして後世に語り継がれたに違いない。

もっとも、格調高すぎる《ラウンド・ミッドナイト》抜くと、『クッキン』や『リラクシン』などのプレスティッジの4部作の同一線上の位置づけとしての名盤となっていただろうけど。

同マラソンセッション4部作とは同一メンバーな上に、録音時期も重なっているので、音楽的にもスタイル的にもこれら4部作の延長線上として認識されるのはいたし方の無いことだと思う。

しかし、単なる延長線上のアルバムではないこと、大手メジャーレーベルに移籍してスケールが何倍も大きくなったことを高らかに宣言する演奏こそが《ラウンド・ミッドナイト》だとすれば、やはり、どうしてもこの曲を冒頭に持ってくる必要があったのだと思う。

他の曲だけを集めてアルバムを作っても、もちろん名盤たりうる内容には違いないが、《ラウンド・ミッドナイト》の決定的名演が冒頭に配されたことにより、名盤が超一級の名盤へと昇格した。

そして、同一メンバーにもかかわらず、大手メジャーレーベルに移籍したことによって、一段とスケールアップしたことを知らしむには、この優れた名演が冒頭に配されれば、十分すぎるほどに十分だったといえる。

演奏という行為がジャズマンの関心の殆どのビ・バップ、これに「聴かせる」要素をも盛り込んだものがハードバップだとすれば、「聴かせる」「魅せる」ことに最大限のエネルギーを注ぎ込んだ《ラウンド・ミッドナイト》こそが、ハードバップの頂点の一つといえよう。

「曲を演奏すること」のみならず、いかにしてストーリーを音で語り、映画のように曲を「演出」するか、これは演奏家としてはなく、類稀なるスタイリストでもあったマイルス・デイヴィスが心砕いたことでもあり、彼の盟友、かつ俳優としてのマイルスを支えたスタイリスト、ギル・エヴァンスのアレンジが、見事にマイルスの欲求に応えた言えるだろう。

いずれにせよ、大手メジャーレーベルへの移籍もあいまって、より一段と音楽的にトータルなスケールアップを果たし、ゆくゆくは帝王と称されるマイルスの確実かつ力強い一歩を刻んだ作品なことは間違いない。

後に、同レーベルから『マイルストーン(一里塚)』なるアルバムが発売されるが、『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』は、後々、凄まじい速度で進化・発展してゆく音楽家・マイルスへと繋がる“最初のマイルストーン”だったのだ。
(2006/10/17) 

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