NEFERTITI (Columbia) |
| - Miles Davis |
|
|
Miles Davis(tp) Wayne Shorter(ts) Herbie Hancock(p) Ron Carter(b) Tony Williams(ds) 1967/06/07,22 & 07/19 |
|
|
|
ウエイン・ショーターは、マイルスに多大な影響を与えていると思う。 それが証拠に、ショーターがマイルスのグループに加わった直後のライブ・レコーディング、『マイルス・イン・ベルリン』を境に、今までになかった、妖しい雰囲気がグループに漂いはじめているからだ。 マイルスのトランペット自体には、この段階では、まだ大きな変化は見られない。 しかし、ショーター参加のスタジオ録音の作品、『E.S.P.』、『マイルス・スマイルズ』、『ソーサラー』、『ネフェルティティ』を通して、少しずつ、少しずつ、いわゆるジャズ的なイディオムから逸脱し、抽象的なニュアンスを大事にしたプレイに変化している。 そして、マイルスのトランペットのニュアンスが、従来とは異なった趣きを放っている決定打が、本作、『ネフェルティティ』だ。 このアルバムの曲の作曲者は、ショーター3曲、ハンコック2曲、トニー1曲という割合で、マイルス自身は作曲に関与していない。 その分、マイルスは、ニュアンスを最大限にこめることに神経を集中させることが出来たとも取れるし、このアルバムから放たれる、なんとも形容しがたい「ムード」、これはショーターの影が色濃く反映されているからなのではないかと思う。 ショーターが持つ独特の、着地点の見え難い、つかみどころの無いプレイと、曲作り。そして、不思議な浮遊感あふれるテイスト。ショーターならではの「ムード」が、確実にマイルスという音楽家の目指す方向性に影響を与えていると思う。 マイルス・デイヴィスという人は、単なる「いちトランペッター」としては括れないし、「楽器奏者」としてだけで括ってしまうと、マイルス・デイヴィスという音楽家の持つ資質や個性の半分も捉えられないと思う。 彼は、ショーターが自分のグループに加入する遥か以前から、トータルなサウンドバランスに気を配り、なおかつ音楽的な性格の全く異なるジャズマン同士をも、絶妙なバランスで素晴らしいサウンドに仕立てあげてしまう "コーディネイトの達人"でもあった。 ショーターと出会う前のマイルスのサウンドは、乱暴に一言でまとめてしまうと、「シンプルに"ピリッ"とスパイスの効いたサウンド」を演出してきた。 ところが、ショーターが自己のグループに加入してからのマイルスの目指すムード設定は、深く、暗く、ドロドロとした深淵な世界へと変化していった。 いわゆる"ショーター効果"だ。 そして、電気楽器を導入以降のマイルスの作り出すサウンドは、このドロドロ・グチャグチャ感にさらに拍車がかかり(既にショーターはマイルスのもとを離れていても)、最終的には『アガルタ』、『パンゲア』の境地に至ったのではないのだろうか。 さて、肝心の『ネフェルティティ』。 少なくとも私にとっては、「ジャズを聴こう」と思って手に取るアルバムではない。 なんと言ったらよいのだろう、「さて、暗闇でも聴くか(うーん、ちょと語弊が…)」とか、「さて、妖しい夜の底なしムードに呑み込まれるか(意味不明)」といったような思いが、このアルバムをかける動機のようなものだ。 もはや、マイルスを聴こうとか、誰々のプレイを味わおう云々といった具体的な欲求ではなく、「雰囲気」「ムード」「濃厚な空気」を味わうための、1枚の「空気パッケージ」。そのような趣がこのアルバムなのだ。 そう、ジャケットから、中身の音楽までをひっくるめて、「不思議なムードの真空パック」のようなものなのだ、このアルバムは。 特にショーター作曲の「ネフェルティティ」と「ピノキオ」の不思議なメロディ感覚が、このアルバムの独特のムードを決定づけている。 アドリブ抜きに執拗に同じメロディが繰り返される「ネフェルティティ」。 ニュアンスを少しずつ変えて、奥行きと立体感が溢れる演奏。楽理、構造よりも「気分」「ムード」で演奏が構築されているのだと思う。 2曲目の「フォール」も、ああ、沈んでゆく、溶けてゆく…。気だるい、気だるい。目蕩(まどろ)みの極致。 「ハンド・ジャイブ」、「マッドネス」から漂ってくる、ただならぬ緊迫感。 どこへ行くのか分からない、どこへ突き進むのか、ゴールの見えぬ果てしない暗闇の世界を漂うようなアルバムだ。 このアルバムの前後から、単なるバンド・リーダーを超えた、えもいわれぬ超越性、カリスマ性が身に付きはじめた頃のマイルス。 ウェイン・ショーターが触媒となっていることは疑いようもない。 『カインド・オブ・ブルー』が「蒼の奇跡」だとすると、 『ネフェルティティ』は「黒の奇跡」だ。 |
| (2002/03/03) |
|
|
|
|
All Rights Reserved. |