SPAIN (Lola Records)
- Michel Camilo & Tomatito

  1. Spain Intro
  2. Spain
  3. Besame Mucho
  4. A mi nino Jose
  5. Two Much/Love Theme
  6. Para Troilo y Salgan
  7. La Vacilona
  8. Aire de Tango

Michel Camilo(p)
Tomatito (g)

1999年

最初に聴いたのは、メキシコ料理屋のカウンターで。

ときおり会社帰りに立ち寄るこの店は、おいしい料理と、洒落た内装、暗めに落とした照明が落ち着いた雰囲気を醸し出している。

かかる音楽も良い。
ジャズ、ロック、ブルースとジャンルを問わずに、店の雰囲気に合うようにセレクトされたセンスの良い音楽が、そのシチュエーションに相応しいセンスの良い選曲で流れている。

店の空間のなせるワザなのだろうか。たとえば、バド・パウエルの『シーン・チェンジズ』の次に、ボブ・マーリーの『ライブ!』がかかっても、なんの違和感も感じない。

深夜の2時過ぎまで営業しているので、飲み始める時間が遅い私にとっては、とてもありがたい店だ。
もっとも、終電の時間帯を過ぎると、店内はガランとしてしまい、ほとんど人がいなくなってしまうが…。

その誰もいない時間帯に、いきなりガツーン!やられてしまった音楽が、ミッシェル・カミロとトメティートのデュオ、《スペイン》の演奏だ。
それまで流れていた明るめのポップスが終わった後、ムードたっぷりな 《アランフェス協奏曲》が店内に流れはじめ、怒涛の《スペイン》のイントロになだれこんだ。

ガランとした店内に大音量で流れた《スペイン》の勇壮かつ哀愁たっぷりの旋律は、店内の空気を一新するのに充分だった。
たとえるなら、店内の空気が真っ赤に染まった。
情熱的で物哀しいフラメンコギターがそう感じさせたのだ。

ギター、ピアノともに、見事なテクニックと情感。
チック・コリアの名曲《スペイン》が、さらにバージョンアップされた演奏とでも言うべきか。

カウンターの中でグラスを拭いているマスターに「この《スペイン》を弾いているギター、誰ですか?」と聞いてみた。
ニヤリと笑ったマスター、「トメティートです」と言って、このアルバムのジャケットをさっと取り出して我々に見せてくれた。
ミッシェル・カミロとトメティートの『スペイン』。
アルバムタイトルと演奏者名をメモッた私は、翌日CD屋に走ったのは言うまでもない。

私はアンソニー・ジャクソンのベースプレイに関心があるので、彼のベース聴きたさで、ミッシェル・カミロのアルバムは何枚か持っている。
彼は、ドミニカ共和国出身のピアニスト。
ブライトでダイナミックなタッチ、そして華麗なテクニックの持ち主のピアニスト。そんな彼に対して私が抱いていたイメージは、“ラテンフレバーな明るめのピアニスト”だった。

しかし、そんな彼の奏でるスパニッシュタッチの哀愁あふれるピアノを聴くと、ラテンなだけなピアニストではないことがよく分かる。
しかも、トメティートとは絶妙なコンビネーション発揮し、ソロでもバッキングでも、非常によく歌っている。
特にギターのバッキングにまわったときの彼のピアノは、一瞬ギターなんじゃないかと錯覚してしまうほどだ。

ギターのトメティートは、このアルバムで初めて知ったギタリストだが、調べてみると、10代でスペイン・ポピュラー音楽界最高峰の歌手、エル・カマロン・デ・ラ・イスラに認められ、若手ギタリストにとっては最高に栄誉な賞、「エル・ヒラルディージョ賞」を'84年に受賞しているという経歴の持ち主。
パコ・デ・ルシア続くフラメンコ界における実力派ギタリストとして注目を集めているという。
トメティート(トマト)はもちろんニックネームで、本名は、ホセ・フェルナンデス・トーレス。

この《スペイン》は、いつ、どこで聴いても感動の質は変わることはないだろうが、シチュエーション的には、やはり目の前には酒があり、そして照明も暗めのほうがムードが倍増すると思う。

だから、私は飲み屋に行ったときには、いつでも「これかけてよ」と頼めるように、カバンの中に《スペイン》を録音したMDを忍ばせるのだ(最近はあまり忍ばせないけど)。
これがかかっている間の店の空気の緊張感がたまらない。
談笑していた他のお客も、真剣な顔をして耳をそばだて始めることもしばしば。
自分の好きな音楽に、関心を示してもらえると、やはり嬉しいものだ。

《スペイン》は、曲そのものが名曲には違いないが、この曲の“旨さ”をたった二台の楽器で限界まで引き出しているカミロとトメティートの演奏は、ある意味、チック・コリアのオリジナルの演奏よりも深く、哀しく、切ない上に情熱的だ。

是非、聴いてみてください。

(2003/06/16) 


Michel Camilo | Jazz Blog | Cafe Montmartre

←backward
homeJazz Albums

forward→


Copyright(c) Kumo Takano,
All Rights Reserved.