SONNY CLARK TRIO (Blue Note)
- Sonny Clark

  1. I Didn't Know What Time It Was (Alternate Take)
  2. I Didn't Know What Time It Was
  3. Two Bass Hit
  4. Two Bass Hit (Alternate Take)
  5. Be-Bop
  6. Tad's Delight (Alternate Take)
  7. Tad's Delight
  8. Softly As In A Morning Sunrise
  9. I'll Remember April

Sonny Clark (p)
Paul Chambers (b)
"Philly" Joe Jones (ds)

1957/11/13

ソニー・クラークのピアノを「後ろ髪を引かれるようなタッチ」と評したのは、たしか評論家の油井正一氏だったと思うが、なかなか言いえて妙な表現だと思う。
とくに、ブルーノート盤のほうの『ソニー・クラーク・トリオ』においては、それが顕著だ。

陰影に富んだ微妙なニュアンス、粘り気のある重いピアノ。
タイム盤にも『ソニー・クラーク・トリオ』という同じタイトルのアルバムがあり、そちらのクラークは、どちらかというと、メリハリの利いた勢いのあるタッチだが、ことブルーノート盤のトリオにおけるクラークのタッチは、まさに「後ろ髪を引かれる」ような感じなのだ。
一音一音が粘っこく、リズムの後ろへ、後ろへと、引きずるような重いタッチのため、一音一音がポロポロとこぼれるような独特なピアノの音色となっている。
一音一音を丹念に追いかけてゆくと、えもいえぬ快感がじわじわと全身にめぐってくると思う。
この滲みでてくるような「黒い」フィーリングが掴めると、彼のピアノに病みつきになることだろう。

かく言う私も中毒患者。
端正で地味といっても差し支えないほどのピアノ・トリオのアルバムだが、表面的な興奮ではなく、内側から少しずつ高揚してくる気分を味わえる。
興奮した脳と、それとはうまく折り合いをつけられずにいる身体がモヤモヤとした不思議な感じになってしまう。

ソニー・クラークは、ジャズピアノのスタイルの分類の上においては、パウエル派とされている。
たしかに、このアルバムでも《ビ・バップ》や《タッズ・ディライト》といったバップ・ナンバーが演奏されているし、クラークの本領発揮とでも言うべき快演なことからも、彼は生粋のバッパーだということが伺える。
スタイルにおいては、バド・パウエルの手法を踏襲していることは容易に認められるが、演奏全体から感じ取れるニュアンスはパウエルのピアノとは、かなり趣きが異なる。

時として、常人を寄せ付けぬ気迫と厳しさをたたえたパウエルのピアノ。
演奏によっては眩い光を思わせるほどに絢爛で鮮やか、そして、一音一音の存在感が強烈で、音が“立っている”パウエルのピアノ。
このパウエルのピアノと比較すると、クラークのピアノは、もっと湿り気を帯びている。

たとえば、ハイテンポで演奏されている《ビ・バップ》。
彼のピアノの一音一音を追いかけてゆくと、粒だちはハッキリしているが、ポロ・ポロ・ポロ…と、角が丸い独特な音色を感じ取れると思う。
この音色が、ハイスピードで疾走してゆく快感こそ、クラーク的快感だし、このタッチの虜になっているのは本国アメリカよりも、むしろ日本のジャズ・ファンだということが興味深い。
四季折々の微妙なニュアンスを感じ取れる日本人の感受性に響いたのかどうかまでは分からないが、国によってミュージシャンの評価や感じ方が微妙に異なるのは、面白い現象だと思う。
余談だが、日本では熱狂的なデイヴ・ブルーベック・マニアの存在ってあまり想像出来ないが、本国アメリカでは常に人気の上位を占めるピアニストの一人だという。
ブルーベックとソニー・クラーク。まったく対極といっても良いほどのピアノだ。
このギャップからも、なんとなく国民性の違いの一端を垣間見るような気がする。

このアルバムの人気曲は、なんといっても《朝日のようにさわやかに》だろう。曲のマイナー調のムードが、まさにクラークの資質とピッタリと合っている。
端正で落ち着いたたたずまいの演奏。
落ち着いたテンポながらも、少しずつ熱を帯びてくる様が素晴らしい。
曲の途中で倍テンポになるところ、そして元に戻るところが、静かにスリリングだ。

ラストのピアノソロ、《アイル・リメンバー・エイプリル》は、ピアノの音が団子になっていて聞き苦しいと指摘する人もいるが、個人的には愛着を感じる演奏だ。
スローテンポでしみじみと、まるでメロディを噛みしめるように弾かれた《アイル・リメンバー・エイプリル》。
彼は決してバラードの名手とは言いがたいが、逆に流暢すぎない不器用さが、ソニー・クラークというピアノ弾きの人間性や、大げさに言えば人生を覗き見ているような気がする。
それに、この曲が無いと、なんだかアルバムが終わったような気がしないし。

このアルバムが録音されたのは、クラークがロスからニューヨークへやってきた年だ。
リズム隊は、マイルス・コンボに在籍していた、ポール・チェンバースとフィリー・ジョー・ジョーンズ。名手だ。
クラークは、西海岸にいた頃から、この二人との共演を夢見ていたという。

彼らの堅実で手堅いバッキングが、ソニー・クラークの個性を見事に引っ張り出した。
そして、彼の良き理解者、アルフレッド・ライオンによって、一枚のアルバムに封印された。
ジャケットも素晴らしいこのアルバム、たとえ時代やジャズのスタイルが変化しても、心あるジャズファンがいる限り、永遠に聴き継がれてゆくことだろう。
(2002/06/03) 


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