THE SONG OF SINGING (Blue Note)
- Chick Corea

  1. Toy Room
  2. Ballad I
  3. Rhymes
  4. Flesh
  5. Ballad III
  6. Nefertitti

Chick Corea (p)
Dave Holland (b)
Barry Altschul (ds)

1970/04/07-08

私がチック・コリア奏でるアコースティック・ピアノが好きな理由は、1にも2にも、彼ならではの明晰さと透明感があるから。
明晰さとは、分かりやすさと言い換えても良いかもしれない。

だから、分かりやすいピアノを弾く人が《スペイン》のようなキャッチーな曲をやるよりも、私はサークルや『A.R.C』、そしてこのアルバムのような前衛がかったピアノを好む。

難解そうに聴こえるアグレッシヴなアプローチも、チックのピアノはどういうわけか、とても分かりやすい。

世評では「失敗」と断じられているサークルの諸作も、私にとっては分かりやすく親しみやすい前衛作品に聴こえる。

「失敗」と称されるのは、商業的には……、ということでしょう?

音楽的に失敗とは思えない。少なくとも私には。

だって、気持ちいいじゃないですか。ヒンヤリと鋭角的で。
ピンと張り詰めたこの空気感を保ちつつ、語弊があるかもしれないが、ポップな難解さが、好奇心旺盛な耳をコチョコチョとくすぐってくれるのだ。

この試みで、あと数枚は出して欲しかったなと思う。

チックの表現の「分かりやす」さの源泉は何だろう?
それはおそらく、タッチとタイミングによるものだと思う。

彼のタッチはブライトだ。さらに軽やか。あるいは、軽い。

ノリに関しても、言い方悪いが、ヒョコヒョコとしているので、大袈裟に言えば、何を弾いてもポップに聴こえる。

同じ内容をセシル・テイラーのようなピアニストが弾くと、そうはいかない。彼が弾くと、荘厳、かつ緊迫感あふれるピアノに聴こえてしまう。

チックとテイラーは、ある時期、やっている音楽のアプローチが似通っていたとはいえ、聴こえてくるサウンドのテイストはまったく異なるものだった。

このアルバムも、そう。

「聴きやすい前衛」っぷりが全開で、ダークでへヴィな気分にならずに、サラリと脳を刺激してくれるようなアプローチなのだ。

代表作『A.R.C.』でも演奏されているが、ショーターの《ネフェルティティ》の演奏が興味深い。

マイルス・デイヴィスの『ネフェルティティ』での演奏は、どこか暗闇に溶け入りそうなダークかつミステリアスなフレヴァーが魅力だったが、チックが弾くとかなり理知的な響きになるところが面白い。

マイルスのヴァージョンを、様々な色彩を塗りこめた油絵だとすると、チックの演奏のテイストは、CG画。描く対象は同じでも、それほどのテイストの差がある。

もちろん、どちらが良いかは好みの問題。
私は両方好きだが。

ベースのデイヴ・ホランドは、マイルス・デイヴィスのバンド(通称ロスト・クインテット)で、一緒に活動していた盟友。つまり、互いの癖や出方などは熟知しあった関係なので、ここでの演奏も息がピッタリ。

ホランドの一筋縄ではいかないベースは、ここでも健在だ。太く、空間をこねくりまわすように動き回る。

チックと相性の良いベース奏者は?
スタンリー・クラークでも、ジョン・パティトゥッチでも、アヴィシャイ・コーエンでもなく、私にとっては、デイヴ・ホランド。

それは、このアルバムの息のあった絡みを聴いていただければ、おわかりの通り。

ドラムのバリー・アルトシュルも、この二人のコンビネーションに寄り添うように、手堅くサポートをしている。
(2007/09/28) 

このチックのトリオは、『ナウ・ヒー・シングズ・ナウ・ヒー・ソブズ』と『A.R.C.』の中間的な肌触りといえば良いのだろうか。

ブライトな明晰さと、ミステリアスな要素が、丁度良い具合にブレンドされたサウンドテイストだ。

そして、ここがチック・コリアならではの特徴なのだが、彼の場合は、前衛的がかった音楽をやっても、難解過ぎず、頭が痛くなるような音の重圧感も感じさせない。

録音されたのは、ちょうど「サークル」結成の直前。「サークル」でのちょっとヒステリックというか、前のめり気味の鋭いピアノも悪くないが、こちらの演奏はもう少し腰が座った安定感を感じる。

これは、ベースのデイヴ・ホランドの貢献が大きい。

♪ぶんか・ぶんま・ぶんだ

と、ウッディ、かつファットな音色で演奏の屋台骨を形成し、ときには、チックに積極的にからんでゆくホランドのベースこそが、このアルバムの通奏低音といえ、『ザ・ソング・オブ・シンギング』のサウンド・キャラクターを決定づけている。

このホランドが提供する演奏の安定感が、内容の過激さとは裏腹の聴き易さを助長しているのかもしれない。

《ネフェルティティ》に注目。

チックはこの曲を気に入っていたのだろうか、ウェイン・ショーター作曲のこのミステリアス・タッチなナンバーは、『A.R.C.』でも演奏している。

ドロドロな『A.R.C.』に、シャープなこのアルバムのバージョン。両者を聴き比べてみるのも一興だろう。

しかし、いずれの演奏も、マイルス・デイヴィスがショーターらと演奏したダークなミステリアスさとは異なる、幾何学的かつ構築的なイメージ。
ピアノという楽器の特性もあるが、このサウンドテイストの違いを感じ取れれば、より一層チックというピアニストの特性が浮き彫りになってくるに違いない。

個人的には、《バラッド》の1、3がお気に入りだ。

うわべだけではなく、内省的なチックの研ぎ澄まされた美意識をたっぷりと堪能することが出来る。

“親しみやすい前衛”というと語弊があるかもしれないが、過激なアプローチが随所に見られつつも、気軽に聴けてしまうチック・コリアの名作だ。

「カモメのチック」よりも、
「スパニッシュなチック」よりも、
私はこの路線のチックが好きだ。
(2007/02/03) 


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