グイグイとベースがリズムを牽引してゆく。
「きちんと、正しくピアノトリオ」なアルバムだ。
ベースがガッチリとリズムを引っ張り、ドラムが的確にビートを刻んで味付けをする。リズム隊がガッチリと作り上げたビートの土台に乗って、ピアニストは心地よく鍵盤で「歌」を紡いでゆくことだけに集中するだけでいい。
ひたすら、スイングさせることに集中するだけでいい。
良いピアノ、良いジャズ。聴いている間は、これ以上は何もいらない。
お腹がすいたらご飯を食べるような感覚で、何度も聴きたくなってしまう。
そんな良さを持つアルバムが、ウォルター・ビショップJr.の『スピーク・ロウ』だ。
ウォルター・ビショップJr.が煙草を吸っている横顔のジャケットがいい味を出している、“ジャケット名盤”でもある。
ジャズ喫茶のマスターで、オーディオやジャズの評論家でもある寺島靖国氏が『辛口ジャズノート』という著書でこう述べている。
「超人ベーシスト、ジミー・ギャリソンによって、凡庸なピアニスト、ウォルター・ビショップJr.が持てる才能を根こそぎ吸い出された希有な作品である。」
そして、
「このレコードの聴きどころは、平凡なピアニストが超自然的なリズムによって“異常なピアニスト”に変貌するプロセスを、驚きの目で見守ることにある。
1961年3月14日、この日一日だけ、ウォルターは別人になった。その後のウォルターが、ハチに体液を抜かれたセミさながらに、凡庸以下の人に成り下がったのは、周知の事実である。」とも。
なるほど、そうかもしれない。
ウォルター・ビショップJr.が凡庸なピアニストかどうかはさておき、このアルバムの聴きドコロの一つはベースなことに間違いはないだろう。
このアルバムを吹き込んだ1年後に、黄金のコルトレーン・カルテットの一員となったジミー・ギャリソン。
晩年になればなるほど、ハードにエスカレートしていったコルトレーンのサウンドを最後までがっちりと支えたベーシストだ。
ジミー・ギャリソンの“ギャリソン”は、本や雑誌によっては“ガリソン”と表記されることもある。この“ガリソン”という音の響きが、そのまま彼のベースの音色をあらわしているようだ。
“ガリッ!”とした感じの、ちょっとギザついた音色とノリ。ジミー・ギャリソンのベースの特徴そのままではないか。
ギザギザした特徴のある音色で、グイグイとリズムを引っ張ってゆくギャリソン。
ピアノの旋律を楽しんだら、時には、彼のベースのサウンドにも耳を澄ませてみよう。
CDだと、オルターネイトテイクが盛りだくさんな編集となっている。
この「ありがた迷惑」な編集のCDを楽しく聴くコツは、まず全部の曲を「マスター・テイク」にプログラムしてから再生ボタンを押すこと。
そうすると、不思議なことに、まるですべての曲が一曲にまとまったが如く一つのストーリーを描き出す。
統一されたトーン、テイスト、適度にリラックスした雰囲気が心地よく空間を包んでくれる。結果、1曲目の《サムタイム・アイム・ハッピー》から、ラストの《スピーク・ロウ》まで、一気に聴くことが出来るのだ。
あとは、快適にスイングするこの演奏に浸れれば、もう何もいらない。