REMEMBERING BUD (Ninnty-One)
- 秋吉敏子

  1. Cleopatra's Dream
  2. Remembering Bud
  3. Un Poco Loco
  4. Obliviation
  5. Celia
  6. I'll Keep Loving You
  7. Parisian Thoroughfare
  8. Budo
  9. Tempus Fugit
  10. Dance Of The Infields

秋吉敏子 (p)
George Mraz (b) #2,3,4,5,6,7
Ray Drummond (b) #1,8,9
Lewis Nush (ds) #1,5,6,7,8,9
Al Harewood (ds) #2,3,4

1990/07/31 & 08/01

先日、ブルーノート東京に行ってきた。
マッコイ・タイナーのライブを観るためだ。
ベースにジョージ・ムラーツ、ドラムスにルイス・ナッシュを従えたピアノ・トリオというフォーマットだった。

このライブを誘ってくれた人が、せっかく整理番号が30番の順番待ち券を取ってきてくれたにもかかわらず、開演までには時間があるからということで、近くの餃子屋さんで飲んだくれていたため、到着した頃には、すでに140番以降の整理番号の座席案内の時間となっていた。

しまった。これじゃ良い席で見れないじゃないか。食いしん坊の俺のバカバカバカと自分を責めたことは言うまでもない。
しかし、気を効かせてくれたウェイターは、中々良い席を2種類提案してくれた。

一つは、ステージ全体を見渡せる後方の座席。
一つは、ステージ真横の最前列のテーブルの席。

「お客様のお好きな席でよろしいですよ」
うーん、このウェイター中々親切ではないか。

我々は迷わず、ステージ真横の座席を陣取った。
位置的にはちょうど、ドラムセットの斜め後ろを見渡せる位置のテーブルだ。
「おお、これでルイス・ナッシュのスティックさばきを盗めるぞ!」とつぶやいたら、ウェイターは、「そうなんですよ、ルイス・ナッシュの手首は、ホント、しなやかで柔らかいですよね。彼の手さばきを存分に間近で楽しめる位置です。」と解説してくれた。

このウェイターなかなか良いこと言うねぇ。
私も、ルイス・ナッシュというドラミングの特徴は、一にも二にもスピード感だと思っていたのだ。
重さと厚みは足りないかもしれないけれども、そのかわり、空を切り裂かんばかりの斬れ味とスピード感を誇るドラミングだと思っている。

私の好きな最近のドラマーの一人にジェフ・ワッツがいるが、彼のドラミングは、ルイス・ナッシュの対極で、非常に重量感があるし、粘っこい。
瞬発力もパワーも申し分の無いドラマーで、個人的にはブランフォードやウイントン兄弟のリーダー作で彼が参加しているアルバムを聴いていると、耳をドラムのほうにフォーカスしてしまうこともしばしばだ。
また、彼のリーダー作も愛聴盤の一枚だったりもするほどジェフ・ワッツのドラムは大好きなのだ。

しかし、ジェフ・ワッツとは対極のスタイルのルイス・ナッシュのドラムも時折恋しくなることもまた事実。
トンコツラーメンばかり食べていると、あっさり目のちり麺が恋しくなるのと同じようなものなのかもしれない。

ルイス・ナッシュのすごいところは、シンバルやハイハットなどの金属系の音が綺麗で澄んでいるところと、濁りのまったく感じられないクリアな音を叩き出すことだと思う。
神経質さはまったく感じられないが、かなり細やかに楽器の叩くポイントを選んでいるような気がするし、叩くポイントによって生じる音色の差を、演奏中のどの箇所で奏でればもっとも効果的かということを熟知しているように感じるのだ。

ああ、そんなルイス・ナッシュのドラムを手首と両足がまる見えの至近距離から見れるなんて!

と、いったことをどこまでブツブツ呟いたかは忘れたが、そんな私の気分を察してか、それとも単なる偶然か、ウェイターはこう言った。

「たとえば最近だと、ジェフ・ワッツというドラマーがいるじゃないですか?彼のようなズドン!というタイプのドラマーじゃないんですけど、でもルイス・ナッシュは別な意味でスゴいですよ。本当、この位置だと彼のしなやかなドラミングが見れてお得ですよ。」

私と同じことを考えていたので嬉しくなったのと同時に、この人はジャズをよく分かってるなぁと感心した。
まぁ当たり前か。
彼は毎日様々なジャズマンの演奏を目の当たりにしているんだから。

ステージが始まる。
ベースのジョージ・ムラーツが登場。
今回、私がこのライブに行きたかった最大の理由は、ベースのジョージ・ムラーツを生で見たかったからだ。

しなやかで伸びがある低音。
あふれんばかりの歌心。
常にスイングすることを忘れないベースワーク。
大好きなベーシストの一人なのだ。
チェンバース、ヴィネガーといった黒人ベーシストも好きだが、ピエール・ミッシェロ、チャック・イスラエルズ、ビル・クロウにレッド・ミッチェルといった白人ベーシストも大好きな私。
これら白人ベーシストの中でもベストにはいるぐらい好きなベーシストがジョージ・ムラーツなので、是非とも一度は彼のプレイを間近で観てみたいと思っていたのだ。

登場した彼は、雑誌やアルバムで見た写真の顔とは少し違った印象だった。
眼鏡をかけ、一言で言えば、非常にインテリジェンスを感じさせる風貌。ベースを持っていなければ、職業は大学教授に間違えられてもおかしくないようなルックスだった。

我々のテーブルからはルイス・ナッシュが一番間近に見え、次にステージ中央のムラーツ、そして、マッコイは、グランドピアノの蓋の奥から顔と胸だけが見えた。

マッコイ目当ての人にとっては物足りない位置だと思う。
なにしろ、マッコイがほとんど見えないし、位置の関係で、どうしてもピアノよりもドラムとベースの音が大きく聞こえるからだ。

しかし、私はそれでも大満足だった。
マッコイには悪いけれども、ピアノはそっちのけで、ひたすらルイス・ナッシュの華麗なスティックさばきと、ほとんど姿勢を崩さずに、黙々とベースを弾くジョージ・ムラーツのベースを弾いている姿を堪能できたのだから。

とにかく、ルイス・ナッシュのスピード感のあるドラミングと、ジョージ・ムラーツの暖かく伸びやかなベースのコンビネーションを心ゆくまで堪能できたことだけでも、最高の夜となった。

アンコールで演奏されたマッコイの名曲《フライ・ウィズ・ザ・ウインド》以外は、自分でも呆れるぐらいマッコイのピアノを聴いていなかった。

コルトレーンの黄金のカルテットの一翼を担った偉大なる巨人、マッコイ・タイナーのピアノを聴かないだなんて!と思うと、ちょっと勿体無かった気もしたが、第一級のジャズマン奏でるベースとドラムのリズムコンビネーションに間近に接することが出来たことだけでも大きな喜びだ。

名手が繰り出す、躍動感あふれる4ビートを浴びるように聴くことが出来た。これだけでも、なかなか素敵な夜だったと思う。
素敵すぎて、ステージ終了後もテーブルでリラックスしていたら、すでに店内はガラガラ。我々以外の客は一組しか残っておらず、終電も逃していたけど…。

ルイス・ナッシュとジョージ・ムラーツ。
この二人のリズムセクションを楽しめるアルバムとして、そういえば一時期、秋吉敏子の『リメンバリング・バド』をよく聴いていたことを思い出した。

陽気なラテンタッチの《シリア》。
《アイル・キープ・ラヴィング・ユー》における深い包容力。
シャープなスピード感、《パリジャン・ソロフェア》。

彼らの繰りなすリズムは、懐深く、躍動感に満ち満ちている。
このアルバムも、発売当時は、今回のマッコイと同様、秋吉敏子ピアノには目もくれず(耳もくれず?)リズムばかりを追いかけて楽しんでいたものだ。

肝心の秋吉敏子のピアノだが、このアルバムにおいての彼女のピアノに関しては、特筆すべきことは何も無い。
ミスタッチも多く、自家篭中でない曲までも、企画の趣旨に合わせて弾いているだけのような演奏もあるので、あまりこちらの心の奥に届くものはない。

あくまで、リズムを堪能するアルバムだと割り切っている。

(2002/07/16) 


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