LOUIS ARMSTRONG PLAYS W.C.HANDY (Sony Music) |
| - Louis Armstrong |
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Louis Armstrong (tp,vo) Trummy Young (tb) Barney Bigard (cl) Billy Kyle (p) Arvell Shaw (b) Barrett Deems (ds) Velma Middleton (vo) 1954/07/12 |
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サッチモことルイ・アームストロングといえば、おそらくジャズに興味ない人でも、名前と顔が一致するぐらいは知っているだろうし、邦題“この素晴らしき世界”、つまり《ホワット・ア・ワンダウル・ワールド》のメロディとだみ声の歌唱ぐらいは聴いたことはあるだろう。 たしかに、《ホワット・ア・ワンダウル・ワールド》は、とても素晴らしい曲だし、サッチモの“あのダミ声”による歌唱と分かちがたく結びついているところがある。 《ホワット・ア・ワンダウル・ワールド》が収録されている、その名も『ホワット・ア・ワンダウル・ワールド』というアルバムは、万人に安心して勧めることが出来る“ポップスアルバム”だ。 しかし、“ポップスアルバム”と書いたとおり、サッチモの歌唱や、小粋な楽曲やアンサンブルを楽しめる内容ではあるが、ルイ・アームストロングというジャズ史に燦然と輝く大巨人のパワフルなエッセンスは若干薄まっていることは否めない。 巨人がちょっと肩の力を抜いて、気軽な気分でポップスチューンを歌ってみたら、その出来も素晴らしいものになってしまいました、というのが『ホワット・ア・ワンダウル・ワールド』というアルバムなのだ。 もちろん、素敵なアルバムなので、このアルバムもサッチモ入門の1枚として挙げることに吝かではないのだが、もう少し贅沢をして、彼の力強い音楽的パワーと音楽的な充実度のバランスが取れたアルバムを挙げるとしたら、なんといっても、『プレイズ・W.C.ハンディ』だろう。 作曲者W.C.ハンディの本名は、ウィリアム・クリスティ・ハンディという。 「ブルースの父」と称えられる彼は、アメリカの各地域に根差す黒人音楽の採譜と作曲に生涯を捧げ、ブルースの魂を現代に伝承させようとした功労者だ。 若い時分、アメリカを放浪して回り、現地の黒人たちが歌うワーク・ソングやブルース、ゴスペルの旋律を採譜して回った。 採集と同時にアメリカ南部の黒人が歌うとりとめもない旋律を整理していくうちに、彼はヨーロッパの音階、つまりクラシックの「ドレミファソラシド」の中にはない、3番目と7番目の音が微妙にフラットしているブルーノートという特殊な音を発見した。 彼は採集した旋律からブルースの定型を作り上げてゆき、各地で歌われる断片的なフレーズを数々の名曲にまとめ上げたのだ。 各地に点在する断片的なメロディを、ハンディが多くの作品として発表したことにより、アメリカの地方音楽が次第に大衆へと浸透していったのだ。 彼が採譜し、編集し、作曲した楽曲は多くのミュージシャンに愛され、演奏された。 そんなハンディの曲の中でも、もっとも有名な曲はなんといっても《セントルイス・ブルース》だろう。 エキゾチックなムードと、喧騒と倦怠感に満ちた港町・セントルイスの息遣いが、リアルに伝わってくるようだ。 ハンディの代表作どころか、米国を代表する歌曲とさえ言われているこの曲は、ベッシー・スミスの歌唱が有名だが、男性ヴォーカルの歌唱では、なんといってもサッチモの演奏&歌唱がよい。 『プレイズ・W.C.ハンディ』収録の演奏では、サッチモは、これ以上ないというぐらい堂々としたトランペットと歌を披露している。 張りのあるたくましい音色。 シンプルながらも力強いメロディ。 彼のトランペットは、まるで楽器そのものに生命が宿ったかのごとく、生き生きとした躍動感に満ちている。 しかも、この音色の奥底には、陽気なムードのみならず、悲しみや、怒り、寂しさなど、人間の持つ様々な感情までもが凝縮されているのだ。ラッパ一本で、ここまで懐の深い表現を出来る人は、ジャズ界広しといえども、サッチモただ一人だろう。 サッチモの生命力に漲った力強いラッパの音は、時代やスタイルを越えて、今なお聴く者の心を捉えて離さない。 歌のパートは、女性歌手のヴェルマ・ミドルソンとのデュエットだが、ヴェルマの気だるくはすっぱな歌い方も良い雰囲気。 バーニー・ビガードのクラリネットも、まるで人の声のような音色で気持ちよくサッチモのトランペットを彩り、ときおり人のダミ声を模したような音色で奏でられるドラミー・ヤングのトロンボーンも演奏により一層エモーショナルなものにしている。 この録音を聴いたときのハンディはすでに80歳を過ぎており、視力も失っていたそうだが、自分の作品をこれ以上素晴らしく演奏されたものは聴いたことがないと涙を流してルイを称えたという。 他の曲も推して知るべし。 とにかく、力強いのだ。 とにかく、深いのだ。 極上のエンターテインメント作品であるにもかかわらず、もっともっと深いところで、聴き手の生命力のようなものを覚醒させ、強く揺さぶるようなエモーションがあるのだ。 ルイ・アームストロングの素晴らしい音源は、さらに時代を遡ればもっともっとたくさん出てくる。 しかし録音の良さ、アンサンブルの素晴らしさ、際立つ企画コンセプトなどなど、もろもろのバランスがとれているのは、まさに『プレイズ・ハンディ』なのだ。 ジャズというジャンルを特に愛好していない音楽ファンでも、マイルス・デイヴィスの『カインド・オブ・ブルー』とともに、“純粋に素晴らしい音楽”として、ライブラリーに加えて欲しい1枚だ。 |
| (2009/12/04) (加筆修正:2010/04/12) |
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