OFFERING (Fresh Sound New Talent) |
| - Marc Ayza |
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Marc Ayza (ds) Roger Mas (p,Fender Rhodes,Hammond B3 organ,Nord LeadII) Tom Warburton (b) Hellios (turntables) Core Rhthm (vo) #1,7 2008/03/04&05 |
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昨年、私の番組『高野 雲の快楽ジャズ通信』に、“2008年、渋谷で売れているジャズ”というお題目で、TOWER RECORDSのジャズ系バイヤーの吉村健氏にご出演いただいた。 氏は、実際店頭で好評な音源を何枚も持参されて、丁寧に音と店頭での反応を解説してくれたが、その中の1枚にマーク・アイザの『オファリング』があった。 吉村氏によると、「これはジャジー・ヒップホップという新しい文脈で、今、若者に親しまれているし、店としても一押しをしたい音源です」。 たしかに、氏お勧めの1曲目のタイトル曲を聴くと、非常におしゃれな、雰囲気。 低く沈んでゆくフェンダーローズのエレピの音が心地よく、また、ラップをさらに平板にしたほとんど語りに近いスポークン・ワードもムードをさらに助長していた。 これはジャズ喫茶のような喫茶店系の店でコーヒーを飲み、腕を組みながら聴く音ではないなと思った。 むしろ、麻布界隈によくあるような、ビルの一室を改造した坪数狭め、カウンターだけのプライベート・バーで、無指向性のスピーカー(それもインテリアチックな)から低いボリュームで流すのには最適の音だと感じた。 コーヒーではなく、ウイスキーでもなく。ラムやウォッカなどを飲みながら、しんみり、まったりと。 しかも、ウッドベースの音色が妙に艶っぽい。 非常に色気のあるサウンドだと感じた。 このまったりさ具合に拍車がかかった3曲目の《マーヴィン・ゲイ》。 これも、吉村氏お勧めのナンバーだが、なにしろ、マーヴィン・ゲイの曲ではないのに、マーヴィン・ゲイの雰囲気を色濃く湛えている不思議さがある。 《ホワッツ・ゴーイング・オン》などに代表されるジェームス・ジェマーソンのシンコペートしまくる躍動感のあるベースラインが、フラットにディフォルメされている。 というより、このベースラインは、《ホワッツ・ゴーイング・オン》のラインを転調して、躍動的な要素をフラットに伸ばしたものだ。 いっさいのシンコペートを廃したリフレインをウッドベースが奏でているだけでも、リズミックなテイストは別な曲のように様変わりしている。 しかし、それなのに、まったりと、そしてうっすらとセクシーな汗が少しずつ単調なリズムのリフレインの効果で滲んでくるかのようなニュアンスは、マーヴィン・ゲイの音楽の持つ一面を、たしかに的確に別な形で昇華している不思議さがある。 この曲の単純なリフレインによる催眠効果に近い心地よさも、やはりコーヒーやウイスキーではなく、まったりラム系のアルコール。 この2曲の“まったり効果”は、ロジャー・マス奏でるエレピ(フェンダーローズ)のセンスによるものが大きい。 まったりとした艶やかさ。 エッジの尖ったデジタル系の音源ではなかなか表現の難しい、若干エッジの甘いモノクロームの音色。 この微妙な質感の違いは、写真で言えばデジカメとフィルムカメラのニュアンスの違いだ。 デジタルカメラの技術はかなり発達してきたとはいえ、やはり独特な深みとエッジの心地よい甘さはフィルム撮影の写真のほうが勝っている。 このような甘く腰のあるニュアンスは、まさにロジャー・マスの鍵盤効果。では、リーダーでドラマーのマーク・アイザのプレイは? といえば、控え目なグルーヴを提供しているだけで、あまり表立ったドラムの主張はない。 プロデュースもマーク・アイザなので、きっと彼の目指すべき音楽はトータルな心地よさなのだろう。……と思いつつも、やはりドラマーとしての腕も気になる。 マーク・アイザは、ブライアン・ブレイドやボブ・モーゼス、そしてジミー・コブなど名だたるドラマーたちから手ほどきを受けたことがあるテクニシャンと聞く。 くわえて、パンクのようなジャケットに写るシド・ヴィシャスのようなルックスのスペインのドラマーは、いったいどれほどのビートを叩き出すのかも気になる。 彼のドラミングを楽しめる曲がないのか? 改めてアルバムを聴き返すと、ありました、ありました。 2曲目の《マチルダ》。 この曲のドラミングは凄い。 前へ前へとつんのめるように繰り出される性急なリズム。 畳みかける、畳みかける。 突っ込む、突っ込む。 まるで、マイルスの『フォー・アンド・モア』のトニー・ウィリアムスのドラムを初めて聴いたときの衝撃と快感が襲ってきた。 ラフでいて細かく、突っ込み気味なビートにもきちんと行間がある。 曲そのものは、比較的単純なメロディと構成なのだが、それだけにかえってアイザのドラミングが浮きあがってくる。 演奏の前半と後半に、アナログシンセがかぶさるが、基本的にはアコースティックピアノが中心の演奏で、アイザに煽られたロジャー・マスが少しずつ熱を帯びてゆく過程を追いかけるのも楽しい。 彼のピアノは正直、猛烈なテクニシャンというほどではない。 しかし、緊張と哀愁を行き来する曲の構造が幸いしてか、ビターとスウィートの緩急が非常に素晴らしい。 切なさを感じさせつつも、哀感のオンパレードになりすぎないところがいい。 緊張感あふれるアイザのドラミングによるところも大きいが、ジャズ的なスリルと、ほどよい哀感がブレンドされた名演奏と感じた。 そして、巷ではジャジー・ヒップホップというジャンルに分類され、そのような文脈で聴かれているであろうアルバムかもしれないが、この曲を聴いた瞬間、「これはまぎれもなくストレートアヘッドな正真正銘なジャズだ!」と感じた。 ジャズに必要な熱気と勢い。 そして、これがもっとも大事なのだが、(私にとっての)ジャズに必要不可欠な「哀感」というスパイスがバランスよくブレンドされている。 ボリュームを上げれば上げるほど高揚感と哀愁が増すこのナンバーは、1日10回以上聴いていた日もあるほど。 この曲に親しむようになったことがキッカケで、他のまったり系の曲や、曇り空なラテンタッチの曲も愛おしく感じられ、『オファリング』というアルバム自体が一つの流れを持った哀切と心地よさが封じ込められた音のパッケージだと感じるようになっている。 録音年月日は最近だが、決して最先端のジャズというわけでもない。 というよりはむしろ、新しさよりも懐かしさを感じる暖かな音で彩られている。 クレジットを見れば、キーボードの機材の名前やターンテーブルを担当するDJの名もあるので、保守的なジャズファンは「今風ジャズか」と顔をしかめるかもしれないが、これらはあくまでアクセント程度の調味料。 基本はストレートアヘッドなピアノトリオだ。 よって、「これこそが今の新しいジャズだ!」と言うつもりは毛頭ない。むしろ、古くも新しくもなく、きっと10年経っても、20年経っても今と同じ熱量で心地よく受け止められる、古びない音楽なのだ。 これは、かなりオススメです。 |
| (2009/03/27) |
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