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『丹下左膳〜百万両の壺』
 〜試写レポート


「姓は丹下、名は左膳!」。
痺れた。カッコいい!

先日放映された中村獅童によるTV版の左膳は、この必殺セリフを何度か放っていたが、豊川悦司バージョンの左膳は、劇中では一回しかこのセリフを言わない。
だからこそ、この一回が効果的なのだ。

日本のおそらく50代、いや、もしかしたら60代の世代にとってのヒーローなのかな? とにもかくにも、当時の様々な“時の役者たち”が演じた人気ヒーロー丹下左膳がスクリーンに蘇るのはじつに38年ぶりのことだという。
私も丹下段平なら知っているが、丹下左膳は知らなかった。
また、当の左膳を演じた豊川本人も丹下左膳は見たことがなかったという。

片眼に片腕。
しかし、剣の腕はめっぽう強い。強情だが、心根は優しく涙もろい一面もある、一貫してアンチ体制な自由人、丹下左膳。

試写会場は満席だった。 それどころか、会場から人が溢れ出たたため、補助椅子までもが出る始末。
しかも、来場者のほとんどが60以上の世代の方々だった。

織田信長、水戸黄門、沖田総司、明智小五郎など、何度も時代ごとにバージョンを変えて上映される歴史上の人物や人気キャラクターがいる。
我々、鑑賞者にとっては、いったいどの役者がどう演じるのかということが興味の的なのだろう。
団徳麿、嵐寛寿郎、大河内伝次郎、月形龍之介、阪東妻三郎、水島道太郎、大友柳太朗、丹波哲郎、中村錦之助などなど、様々な“その時代の旬の役者”が演じてきた人気ヒーロー丹下左膳。

きっと、世代ごとに、好きな左膳を演じた役者の好みが違うのだろうし、各人がそれぞれの左膳感を持っているのだろう。
多くの人は、今回の左膳は、一体どんな役者が、どんな左膳を演じているのだろうという興味で試写会にかけつけたに違いない。

この試写会の数週間後、私はテレビで中村獅童演じる丹下左膳も観たが、同じ左膳でも、しかも同じ「百万両の壷」の話でも、随分と違う内容なのだなと思った。
基本的な設定さえ押さえておけば、かなり細部にいたるまでアレンジが可能な話なのだなということが分かった。
ジャズで言えばスタンダードの解釈がジャズメンによって全く違うようなものだ。

中村獅童の左膳はかなりチンピラ的。とにかく人を斬りたくて斬りたくてウズウズしているような殺気立ったタイプ。それに対して、豊川悦司の左膳は、かなりウェット。人情味があり、腕は立つが獅童の左膳ほど殺気立ってはいない。

私は過去の左膳は、どのようなキャラクターで演じられてきたのかは知らない。
だからこそ、試写会に詰めかけた年配の方には、今回の豊川悦司の丹下左膳はどのように映ったのか、非常に興味深いところではある。

左膳を用心棒として置いておく矢場の女将、和久井映見もなかなかの好演だ。とくに三味線の弾き語りは、口パク無しの実際の演奏なのだとか。

野村宏伸演じる柳生源三郎と、麻生久美子演ずる妻・萩及の夫婦コンビが面白い。特に野村宏紳の恐妻家っぷりがおかしい。
このへんのアレンジも、聞くところによると新解釈なのだとか。

特筆すべきは、矢場の舞台美術の見事さだ。
矢場とは、今でいうところのダーツバーのような遊技場だが、左膳が居候している矢場の店内の美術が素晴らしいと思った。ともすれば悪趣味になりがちなほど、ふんだんな色が使われているが、ケバケバしい下品さは皆無で、むしろしっとりと落ち着いた上品な舞台美術となっているところが見事だ。
色彩の配列が美しいセットだと思った。

丹下左膳のヒーローっぷりを楽しむだけではなく、じっくりとストーリーを追いかけ、かつ楽しめる映画となっている。だからこそ、豊川悦司の“人情左膳”の存在が生きてくるのだ。

〔観た日:2004/06/02〕

  • 製作年 : 2004年
  • 製作国 : 日本
  • 監督 : 津田豊滋
  • 出演 : 豊川悦司、和久井映見、野村宏伸、麻生久美子、金田明夫 ほか
  • 配給 : エデン
  • 公開 : 2004/07/17より公開
(記:2004/06/02) 



現在上映中の恵比寿ガーデンシネマ、浴衣などの和装で映画館に行くと大人が200円、子供が100円の割引になるそうなので、女房&子供を連れてもう一度観に行った。
年配の方々からは、昔の左膳とは全然違う、なんだか“江戸人情話に終始しているじゃないか”という意見も出ているようだが、話の内容はともかく、この映画の持つズミカルかつコミカルなところが、現代的なテンポゆえ、年配の方には違和感を感じるのかもしれない。
そのぶん、サクサクと小気味良くまとまった構成は、腹八分目の面白さを味わえ、事実、5歳の息子もスクリーンを観ながら、キャッキャッと楽しそうに笑っていたので、大人だけではなく、子供も安心して楽しめる内容なのだと思う。

(追記:2004/07/27)