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ジャズにおけるベースラインは、コード進行に基づいて1小節中に4つの音符(4分音符)をベーシストが即興で奏でるのが一般的だ。
ベーシストは常に周囲の音に気を配り、その場にもっとも相応しいベースラインを組み立てつつ、演奏のボトムをしっかりと支え、なおかつ力強くリズムを刻んでゆかねばならない。
ベースラインは、同じ曲といえども組み立て方は人それぞれ。同じコード、同じ進行の中にも様々なアプローチがあり、ラインの組み立て方一つとってもベーシストの個性があらわれる。
ところが、素人にとってはこのベースラインの組み立てが、中々一筋縄ではいかない厄介な問題で、コードの構成音の暗記や、ジャズの理論の勉強がある程度は必要となってくる。
これは英語の勉強に似ているのかもしれない。
ベースラインを文章や会話とすると、ジャズの理論は英文法、そしてコードやスケールの知識はボキャブラリーにあたる。
しかし、ただやみくもに知識を詰め込んだだけでは、いざ実戦の場となると、必ずしも役に立つとは限らない。
たとえば、英文法をみっちり学習して、英単語もたくさん覚えたとする。
では、覚えた英単語と英文法の知識を総動員して即興で「枯葉」にまつわる面白い話を英語でしゃべってみましょう。
こう言われてスラスラと話せる人ってあまりいないのではないだろうか。尻込みしてしまう人の方が多いと思う。
だから、「使える英語」を身につけることを第一義に考えると、どちらかというと「英会話」の習得過程に近い練習をした方がマスターが早いのだと思う。
つまり、理屈や単語の詰め込みよりも実戦を優先させる。規則や法則のようなものを覚えるのは後回し、とにもかくにも「決まり文句」を繰り返し繰り返し発音して、口に覚えさせてしまう。
ソラで話せるセンテンスが増えてくれば、次第に応用が効くようになり、自分の意志で英文を組み立てていけるようになる。
ジャズのベースも英会話に似ている。
即興といえども「決まり文句」や「よく使う言い回し」というものはあるわけで、手っ取り早く上達したければ、理論の勉強は後回しにして、まずは「常套句」を丸暗記してしまった方が効率が良い。
そのほうが、覚えた言い回しを基にしてどんどん枝葉を広げてゆくことができるからだ。結局は「オリジナルな言い回し」に到達するのも早くなる。
だからベースを始めたての頃の私は、いきなり自分でベースラインを組み立てようなどとはせず、とにかく手許にあるベースライン集を繰り返し弾くようにした。
特に深い意味など考えずに、ひたすら弾きまくった。
前回このコーナーにも書いた「Confirmation」なども、ひたすら教則本に掲載されている「ベースラインの一例」を繰り返し繰り返し練習した曲の一つだ。
さて、ジャズを演奏するにあたって、最重要必須課題は何かというと、それはブルースだ。
演奏頻度の高い曲ならば当然「決まり文句」の宝庫でもあるはずだ。
だから私はひたすら教則本に記されている「Fのブルース」のベースラインをそっくりそのまま、寝ながらでも弾けるぐらい何度も何度も繰り返し繰り返し練習した。
そして、「Fのブルース」のベースラインは、自分にとって演奏した回数の最も多いベースラインだと思う。
ジャムセッションの折に「じゃあ、まずはブルースでもやりますか」となることが多い。ジャズにおけるブルースは、特にキーを指定しない限りは、ほとんどの場合が「F」を指す。
またグループで練習を始める際の軽い準備運動がてらに一番よく演奏される曲も「Fのブルース」になることが多かったりするので、本当に演奏する機会の多いベースラインだ。
Fのキーのブルース進行の曲は数も豊富だ。
「Now's The Time」「Billie's Bounce」「Au Prevarve」のようなチャーリー・パーカーのナンバーや、モンクの「Straight No Chaser」、ソニー・クラークの「Cool Struttin'」、ミルト・ジャクソンの「Bag's Groove」などなど。
少しでもジャズをかじっていれば、出来ないヤツはモグリといっても過言ではないほどポピュラーなナンバーだし、演奏のしがいのあるナンバーが豊富に揃っている。
よって演奏の頻度も非常に高く、ウワモノのメロディは異なれど、ベースのラインは基本的には皆一緒だから(テーマによっては若干異なるが、アドリブパートに入ってしまえば同じラインでも演奏可)、ベーシストにとっては汎用性の高いライン、覚えればたくさんの曲に使用できる「一粒で何度でもオイシイ」ラインとなるわけだ。
私は初心者向けのウッドベースの教本(タイトル忘れた)に記されているパターンをひたすら練習した。初心者向けの内容なので、ラインの組み立てが非常にオーソドックス。だから逆にブルース独特の「ケーデンス(曲の流れ・経過)」がハッキリと自分の中に刻み込まれたので非常に役に立った。
役に立ったといえば、この教本には「Fのブルース」の模範演奏例が3パターン掲載されていたのだが、私はほぼ2年間、この3パターンだけしか人前で演奏していない(笑)。
本当は勉強すればするほど、凝ったラインや面白いラインが作れたハズなのだけれども、面倒臭いので、猿のようにひたすらこの3種類のパターンを繰り返していた。
しかも人前で、場合によってはギャラを貰えるようなキチンとした会場でも臆面もなく。
なんたるナマケモノなんだろう…
もちろん弾き込んでいるうちに、だんだんとパッシングノートを入れるようになったり、オクターブを上げて弾いてみたり、ちょっとしたオカズを入れるようにしたりもしたが、基本は教則本に掲載された3パターン(笑)。
「英会話の決まり文句100語」のような本があったとしたら、まさに私はこの本に書かれているセンテンスを丸暗記して、それだけを使って2年間生活してきたようなものだ。
さすがに、たったの3パターンだけを繰り返しているのはマズイと思ったので、ずいぶん後になってからジャズの理論をちょっと勉強してみたりもしたし、今ではもう少し自分の中では新しいパターンも形成されてきたが、やはり人前で何百回も弾いてきた教則本の3パターンがカラダの中に染み込んでいる。
この流れとラインを知っておくと、ジャズを観賞する際にも楽しみが拡がる。
ジャズ好きの人はアンサンブルの中においてのベースをどのように観賞しているのだろう?
恐らく「音色」と「ノリ」を中心に観賞しているのだと思う。もちろん私もそうなのだが…。
しかし、それに加えて「ベースライン」が耳に入ってくると、ベーシストのコードやスケールに対しての考え方が浮き彫りになるので、楽器から発せられる音以外にもプレイヤーの頭の中を垣間見るという愉しみも加わる。
どの時代のジャズマンも、もちろん「F」のキーとは限らないが、ブルース進行を基にして作ったオリジナル曲をアルバムに吹き込む頻度が高い。
よって、いつの時代もジャズの基本でもあるブルースのベースラインをベーシストがどのように料理しているのかを自分が身に付けたラインと比較しながら聴ける。
ベーシストのハーモニックなセンスや、アイディアや遊び心が分かるようになれば、観賞の楽しみが拡がるものだし、裏方的で他の楽器と比較すると、個性の差を見つけだすことが難しいベーシストでも、実に様々な個性の持ち主が割拠しているということが実感として分かるようになる。
何はともあれ、私にとってのジャズのベースラインの基礎の基礎を形成してくれたのが、この「F」のラインだった。
(記:2000/10/25)
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