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発作的に、所有しているオールドのジャズベースに、ピックカバーを取り付けたくなった。
以前所有していた'75年のジャズベース(フレットレス)のブリッジ寄りのピックアップの上にもピックカバーをかぶせていたのだが、豊かな倍音が加わり、とてもリッチな音色だったことを思い出したからだ。
当時そのベースを所有していた時分に活動していたブルースバンドは、ギター、ヴォーカル、ベースという、各パートの音色が浮き彫りになる少人数編成。
ピックカバーをかぶせた結果出てくるふくよかで丸いベースの音色だけでも存在感を出せたと思う。
もっとも、ピックカバーをピックアップの上にかぶせることによって、本当のところはどれくらい音色が変化するのかは分からない。ひょっとしたら音色が変化したと感じたのは気のせいだったのかもしれない。
しかし、音色が変化しても、しなくても、銀色に光るピックカバーがボディに装着されているベースの姿は、なんともセクシーで色っぽい。
気分転換にベースの模様替えをするのも悪くないな、と思い、ベースの備品が詰め込まれている滅多に開けることのないハードケ−スを引っ張り出した。
あれ?ネジがない。
フロントとリアに取り付けるそれぞれのピックカバーはあるのだが、それを締めるネジがないぞ。
工具箱の中のネジを物色してみたが、ボディに空いているネジ穴の直径が思いのほか小さい。このようなサイズのネジは家にない。
失くしたのかな?それとも楽器屋が売る時に入れるのを忘れたのかな?
まあいいや、たまには楽器屋を覗いてみるか。
ジャズベースを担ぎ、お茶の水の「オールド・ギター・ガレージ」へ。
狭い階段で最上階へ登る。
ここに来るのは久しぶりだ。
いつものように、古い楽器独特の匂いがフロアに入った途端に鼻をくすぐった。
お、フロア長のY氏も元気そうだな。
壁面を見ると、うひゃ、こりゃまたオイシソウなベースちゃんたちがたくさん入荷されているではありませんか!!
まず目に付いたのは、'64年のジャズベース。
サンバースト塗装にべっ甲のピックカバーというオーソドックスなルックスだが、塗装の剥げ具合が相当に弾き込まれたのだろう、とても良い按配にボロボロになっている。うーん、良い鳴りがしそうだな。
値段は…、ん?たったの(!?)64万円??
俺が持っている65年のジャズベースは80万以上したぞ、どうして年代の新しい俺のベースの方が10万円以上も高いんだ?
「状態が良いものは高いんです。雲さんのジャズベは、ほら、すごく状態が良くてキレイだったでしょ?」
と、Yフロア長。
「それと、生産台数ですね。'65年はフェンダー社がCBSに会社を売却した年でしょ?売却前に生産された'65年のモデルって極端に少ないんですよ。」
なるほど。稀少品は値が張るのは世の常だからね。
それにしても、ジャコが弾いていたようなボロボロのジャズベースをカッコイイと感じてしまう俺としては、状態の良いベースに80万払うよりは、ボロボロのルックスの60万の方が欲しかったな。安いし、生産年代が64年だからね。
今度お金に余裕が出来たら買いたいと思いました。
それまで店に残っていてくれるかな?
というか、それ以前に浪費家の俺のこと、いつまでたってもそんな大金溜まらないって。
次に目がいったのは、俺が持っているのと同じタバコ・サンバースト色のプレシジョン。ジェマーソンばりに、ピックガードとブリッジ部には渋いカバーが取り付けられている。
うーん、端正で上品なルックスだなぁ。
俺が持っているのは、'57年製。店頭のものは'58年製だ。
値札は付いていない。「ask!!」と書いた紙がネックと弦の間に挟まっているだけだ。
思わず「これいくらなんですか?」と尋ねてみた。
Y氏はニヤリと笑い、
「へっへっへ、今なら特別お安くしておきますよ〜ん。74万でどうでしょ?」
そんなお金ないよ。
でも、いいな、タバコサンバースト塗装のプレシジョンって。サンバースト塗装にはない端正な味わいがあるんだよな、よく見ると。
美術館の絵を観賞するように、じーっとその場に立ちすくんで、しばし見入ってしまったよ。
昔、青木智仁というベーシストが、「オールドのベースを床の間に飾り、お茶を飲む(笑)」とベースマガジンのインタビューで語っていたが、その気持ち、よく分かる。良い楽器は見ているだけでも楽しいし、観賞にも値する。
しばらく'58年のプレベに見とれていたら、急に自分のプレベにもピックカバーを取り付けたくなってきた。プレシジョンにピックカバーを取り付けて弾けば、気分(だけ)は、ジェマーソンじゃん!
Y氏に、
「あのぉ、俺が'57年のプレシジョンを買った時にはピックガードが付いていなかたんですけど、前の持ち主が処分しちゃったのかな?でも、俺のプレベにもピックカバーを取り付けたいんですけど、ストックありますか?」
と、あるわけないことを承知で尋ねてみた。
「今は無いですけど、そうそう、私、来週から買い付けでダラスに飛ぶんですよ。しばらく滞在するんで、探しておいてみましょう。」
という嬉しい返事。
ダメモトでも聞いてみるものだ。
なにせ、この楽器屋のスタッフは、アメリカへ行くと現地では靴を履き潰すぐらい「足」を使って良い状態の楽器や部品を探しまわる。
以前も、俺の'57年プレベのジャックが接触不良になったので、部品交換をお願いしたら、別に消耗品のジャックだから、そこらへんにあるものと交換してくれれば良いものを、わざわざ現地で同年代のプレベのジャンクパーツの中からジャックを持ってきて交換してくれたほどの店なのだ。
Y氏の帰国を楽しみに待つことにしよう。
そして、問題の'65年ジャズベースに取り付けるピックカバーに必要なネジだが、店にはあった。
Y氏はすぐにその場でピックカバーを取り付けてくれた。
ピックカバーの装着されたジャズベースの美しい姿。
「ああ、なんて色っぽいんだ…」
と呟くと、Y氏もニヤリと笑い「うーん、色っぽいですねー(笑)」。
しばし二人でピックカバーの取り付けられた65年ジャズベースに見とれた。
ついでに、そろそろいい加減、弦の張り替え時だと思っていたので、ダダリオのフラット・ワウンドの一番太いゲージのセットを買って帰った。
早速家でジャズベースの弦を張り替え、ピックカバーの取り付けられた状態で弾いてみた。
うーん、良い音。
ベースの弦はなるべく張り替えない主義で、ちょっとへたってきたぐらいがちょうど良いと考えている俺でも、張り替えたての弦の新鮮な音色にも魅力を感じてしまう。
今回の弦の交換とピックカバーの取り付けを契機に、新しい自分自身の表現の幅が少しでも拡がれば、と思った。
(2000.03.12)
追記
結局、このピックカバーをつけて「おにくやさん」というバンドのライブをやったあと、すぐにはずしてしまった。
ピックカバーをつけた状態のほうが見てくれは良いのだが、どうしても一番ピッキングしやすい場所がカバーに隠れてしまうので、見た目よりも弾きやすさを選んだという次第。
(記:2002/03/03)
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